丕緒の鳥 十二国記

丕緒の鳥 十二国記 (新潮文庫)

丕緒の鳥 十二国記 (新潮文庫)


架空の国、慶の宮中儀礼「陶鵲」を仕切る官吏、丕緒
羅人という位を授かり、匠の技を持ちながら
自身の仕事が、宮中の政になんら影響を
及ぼすことができないことに鬱々とした日々を送る。
やがて新王が立ち、「陶鵲」の儀が行われる。
丕緒は、自分の思いが伝わらぬと半ば諦めつつも
細工を施す……。


十年数年ぶりに発表になった小野不由美十二国記シリーズ
正直、続編が出ないのなら古本屋に売ろうかと思っていた。
今年の7月、本屋で見つけたときは嬉しさより
なんで今頃、という疑問の方が強かった。
なにはともあれ、買って読んでしまうのがファンというより
シリーズものに手を染めた活字中毒者の性。
発売からだいぶ時間がたったが、先日やっと読了。


今回の「丕緒の鳥 」は、
それぞれの国の官吏を主人公とする四篇の短編からなる。
長編のような壮大な気宇に欠けるものの
登場人物の造形がそれぞれ丁寧であり、
役人としての立ち位置が明確である。
国や民を守るためにそれそれがそれぞれの職務に
忠実であろうとしながら、それゆえに煩悶し苦悩する。
ファンタジーでありならが、さながら
どこかの国であったかのような話であり、
その話のうまさについ引きこまれてしまう。
地味な話といってしまえば、それまでだが、
虚構の世界「十二国」を構築する世界の奥行きの深さを
垣間見るような思いがした。


秋に刊行される予定の新作に期待である。