宇宙の果てまで


宇宙の果てまで―すばる大望遠鏡プロジェクト20年の軌跡 (ハヤカワ文庫NF)

カラヤンベルリンフィルのCDが買えれば、
日本にオーケストラはなくてもよいでのしょうか。
自分たちで音を出したくありませんか。
文化の享受ではなく、文化の創造なのです。


防衛の役には立たないが、防衛に値する国にするのに大いに役立つー
ウィットの効いたやりとりが数年前、産経新聞のコラムで紹介されて
いつか読んでみようと思っていた一冊。


天文観測に長年携わり
世界最大級の光学天文台を海外に建設するべく
その半生を賭けた元国立天文台教授・小平桂一氏の奮闘記。


国内学界の閉鎖的な環境、
前例のない外国への研究施設の建設に反応の鈍い霞ヶ関
現地での習慣、法律の違いから発生するトラブル・・・
海外に天文台を建設するのを天命と定めた著者が
その天命を全うできたのは、
底知れぬ情熱を持っていたゆえではないだろうか。


ハワイ、マウナケア山頂に日本の天文台「すばる」は
1991年に建設開始し、1999年に完成したが
それは彼が天文台建設を思い立ってから20年の月日が経過していた。
各国が大型天文台を建設し
世界の潮流から取り残されつつあったことに
著者が焦りを感じていた1980年代前半ー
まだソビエト連邦が存在していた。
当たり前のことといえば当たり前だが
当時は、東西冷戦が世界を覆っていたのだ。
そうした事実が歴史の片隅に追いやられる二十年という時間の重さに
隔世の感を覚えつつも、
気の遠くなる時間を貫いた意志の強さには感服するより他はない。


「宇宙の果てまで」は科学実録でありながら
この手の本には珍しく、
政治的な話題が折りに触れて挿入されている。
それは、著者が政治的に上手く立ち回って
予算を獲得したという手柄話の類のものではなく
この偉大なプロジェクトが、
政治的な思惑や経済的な事情に翻弄されながらも、
真実を求める科学者や著者の家族など
心ある人間によって支えられた過程を記している。


直径8.3mの巨大な主鏡のレンズ表面の凹凸平均12ナノメートル
レンズを関東平野の大きさに拡大しても、
10分の1ミリメートルあまりという世界最高の精度。
2000年の運用開始以降、同天文台
天文学上の大きな発見は次から次へと続いている。


天文台の「すばる」という名前は、清少納言枕草子から名付けらたものだが
「すばる」という言葉は元来他動詞「すべる(統べる)」に対する自動詞形で
「統一されている」「一つに集まっている」の意であるという。
願わくば、この国を導く標となり、
科学の発展を統べる象徴とならんことを願う。


when I wish upon a star...