孤高のメス


孤高のメス 外科医当麻鉄彦 第1巻 (幻冬舎文庫)孤高のメス―外科医当麻鉄彦〈第2巻〉 (幻冬舎文庫)孤高のメス―外科医当麻鉄彦〈第3巻〉 (幻冬舎文庫)孤高のメス―外科医当麻鉄彦〈第4巻〉 (幻冬舎文庫)孤高のメス―外科医当麻鉄彦〈第5巻〉 (幻冬舎文庫)孤高のメス―外科医当麻鉄彦〈第6巻〉 (幻冬舎文庫)





日本の大学病院の医局に属しない外科医当麻哲彦が、
修行ともいえる外国での研修を終え、縁故を頼って居ついた病院で
輸血拒否の患者や難病の病人を天才的なメス裁きで救い
当時、タブーとされていた肝臓移植を目指し
奮闘し、苦悩する物語である。


主人公が天才的な技術の持ち主であることに加えて、
冷静沈着、公正無私の高潔な人格者として描かれている。
完全無比の欠点のない主人公に鼻白むことはないのは、
その目的とする医療及び治療の難度が高く、
そうした人物をもってしてもその達成が困難な目標を
テーマとして据えているからだろう。


六巻の巻末のあとがきにもあったが
本作品は、平成一桁の頃、ビジネスジャンプ誌上に
現役の医者の原作による漫画として連載された。
単行本も何冊か出ており購入した記憶がある。


肝臓移植や臓器提供など、今では小学生ですら
当たり前のように知っている言葉が、
世間的に認知すらされていなかったことを思えば
隔世の感を覚える。
そういう意味で肝臓移植をメインテーマとした本作品が、
やや時代遅れ物語となったことは否めない。


しかし、この物語は発表した論文の多寡で決まる技量と無関係の学位や
閉鎖的な大学医局の体質、大学や病院の確執などが
物語の背景として丹念に書きこまれおり
医界の問題点を暗に指摘している。
日本医学の根幹をなす医局人事の病巣部分が根治されないかぎり
医局支配のアンチテーゼとしてではあるが
この作品の価値は損なわれことはない。
なにより患者を救おうとする医師のいるかぎり
この物語は色あせることはない、と思う。