日本の大学病院の医局に属しない外科医当麻哲彦が、
修行ともいえる外国での研修を終え、縁故を頼って居ついた病院で
輸血拒否の患者や難病の病人を天才的なメス裁きで救い
当時、タブーとされていた肝臓移植を目指し
奮闘し、苦悩する物語である。
主人公が天才的な技術の持ち主であることに加えて、
冷静沈着、公正無私の高潔な人格者として描かれている。
完全無比の欠点のない主人公に鼻白むことはないのは、
その目的とする医療及び治療の難度が高く、
そうした人物をもってしてもその達成が困難な目標を
テーマとして据えているからだろう。
六巻の巻末のあとがきにもあったが
本作品は、平成一桁の頃、ビジネスジャンプ誌上に
現役の医者の原作による漫画として連載された。
単行本も何冊か出ており購入した記憶がある。
肝臓移植や臓器提供など、今では小学生ですら
当たり前のように知っている言葉が、
世間的に認知すらされていなかったことを思えば
隔世の感を覚える。
そういう意味で肝臓移植をメインテーマとした本作品が、
やや時代遅れ物語となったことは否めない。
しかし、この物語は発表した論文の多寡で決まる技量と無関係の学位や
閉鎖的な大学医局の体質、大学や病院の確執などが
物語の背景として丹念に書きこまれおり
医界の問題点を暗に指摘している。
日本医学の根幹をなす医局人事の病巣部分が根治されないかぎり
医局支配のアンチテーゼとしてではあるが
この作品の価値は損なわれことはない。
なにより患者を救おうとする医師のいるかぎり
この物語は色あせることはない、と思う。