篠田節子の短編集。
人魚に似た水棲動物を作り出し、
その騒動の一部始終を描いた「リトルマーメイド」
篠笛に魅せられ男女が破滅に突き進む「陽炎」
借金にまみれた男が捨てた元女房に助けを求めた「一番抵当権」
チェロに取り憑かれた男「エレジー」
サボテンにかつて愛した女性の姿に見た青年の狂騒「棘」
近未来の臓器移植の物語「子羊」
売れない小説家がパソコンのエロゲームに取り憑かれる「ホワイト・クリスマス」
財政が破綻した国での老人達の余生「静かな黄昏の国」
全て短編ではあるが、どれも力の入った作品で
背筋がうすら寒くなる。
音楽、近未来、現代日本とジャンルやテーマはばらばらだが
音楽ものを除いた作品は、現代日本と現代日本人の病巣を
鋭くえぐった社会風刺にもなっているが
作者はそうした問題提起より
恐怖を読者に与えることを目的として
これらの作品群を書いたような気がする。
長編であれば、問題を提起して、それに対する対抗策を提案しつつも
それに問題があることを指摘し
破滅の時期が早いか遅いかの究極の二者択一を読者に迫るのが
彼女の作風だが、これらの作品は
ショートストーリーゆえに、そうした選択肢は読者に与えられない。
選択肢がない分、それぞれの物語は破滅に向かい
加速しながら一直線に突き進んでいる。
だから、何れの物語も読み進めるにつれて
真っ暗闇の穴の中に、真っ逆さまに転落しているような恐怖を感じる。
つくづくこの作家は怖い。