「夢の超特急」、走る!

「夢の超特急」、走る!―新幹線を作った男たち (文春文庫)


今でこそ、敷設しようと各地方自治体が
躍起になっている新幹線だが
建設当初は、海のものとも山のものとも知れぬ代物だった。
世界三大無用物の戦艦大和に見立てて第二の戦艦大和と呼ぶ人間もいたし
開業当時の国鉄総裁石田禮助は試験中に「こんなの俺は認めない」などと
信じられないような発言までしていた。
鉄道先進国であったフランスでさえ時速160キロ以上の高速鉄道
不可能と考えられた時代だったと云えば、それまでだが
そうした常識を覆した鉄道マン達の魂は、
形容のしようがないほどに熱く、そして誇り高い。



本書は、新幹線建設の中心人物となった島秀夫技師長、
十河信二国鉄総裁、大石重成建設担当常務の三人の軌跡を追い、
不可能と云われた高速旅客鉄道実現の偉業を紹介している。
日本でも高速道路建設によるモータリゼーションの兆しが見え
旅客鉄道輸送は斜陽になるとの考え方が主流の中で
この三人がそろわなかったら、計画は頓挫どころか
企画の段階で消失していたかも知れない。


今の政治でもそうだが、当時でも鉄道や道路は
政治の強い影響を受ける。
政争の具となる中で、政治家や官僚の無理解から
よくもこの計画を守り抜けたものだと思う。
それを可能にならしめたのは日本の鉄道を支えようとする
三人を中心とした男たちのプライドだったのではないだろうか。
本書を読むとそうした男達の熱を行間から読み取ることができる。


新幹線の成功は、日本の高度経済成長のシンボルとして位置づけられ
何より世界の高速鉄道の魁となった事実に照らし合わせても
この三人の慧眼と情熱に敬服せざるを得ない。


また新幹線に乗ってみたくなった。