ベイジン

ベイジン〈下〉 (幻冬舎文庫)ベイジン〈上〉 (幻冬舎文庫)


ハゲタカで一躍ブレークした真山仁の小説
「毎夜生まれては明け方に消える物とは」「希望」
オペラ「トゥーランドット」の謎かけを物語のキーワードに据え
世界が抱えるエネルギー問題を専門的な知識を踏まえて著し
日中間に横たわる問題を白日の下にさらしながら
中国に建設される世界最大の原子力発電所を舞台として
命を賭する男達を描いたエンターテイメント小説。


感想はただ熱い、の一言に尽きる。


下放されながらも理想を語り失意の人生を送る父と
天安門事件に関わり拷問の末に殺された兄をもつ
共産党青年団出身の官僚訒学耕。
兄の影響で大学進学を取り消された彼は
父や兄の理想を追求するような生き方を否定し
ひたすら現実的に政治的に正しい道を択び
腐敗した権力を取り締まる中規委の席を掴み取り
その活動に人生をかけるように打ち込む。


北京市高官の捜査から、
自分の後ろ楯である義父の汚職の証拠をつかむものの
捜査の最前線から外され
大連紅陽市の副書記として赴任し
北京オリンピック開催までに
世界最大の原発の運転開始せよとの
特命が下される。
また同時に紅陽市の腐敗構造を調査するよう指示されたが、
紅陽市の実力者李総に察知され強烈な洗礼と脅迫を受ける。


そして原発建設に向けて孤軍奮闘する訒を
技術顧問日本人技師田嶋伸悟が支える。
意見、慣習、考え方、性格上などの違いから悉く対立するが
原発の運転成功という目的で一致する二人は互いを認め合い、
難題が横たわる原発建設に、精力的に取り組む。



紅陽市の実力者による工事の横やり、
中国の工業力の低さとモラルの欠如
想像を絶する因習としがらみの深さ、腐敗の構造
中国の技術力を疑問視し警告を発するIAEA
金で買えないものはないー後進国でないことを世界にアピールするため
背伸びするかのように飽くなき前進を続ける中国。
オリンピック開催に向けて
北京のみならず中国各地で国家の構造的、政策的矛盾が噴出し続ける。
半数以上の国民が興味を示していないなも関わらず
五輪を国家の威信を懸けたイベントとして開催する意味は何なのか。
おりしも田嶋の父は末期に不吉な夢の話を告げ絶命する。


多くの困難と試練を乗り越え、原発は試運転にこぎつけ、
北京五輪開会式のイベントの中に
紅陽原発の運転開始セレモニーが組み込まれるが、
2008年8月8日ー北京五輪開幕の日、
田島は長年の勘から危険だと判断し原発の運転中止を求める。
訒は田島の要求と党の至上命令で板挟みになり、ある決断を下し、
人々に豊かさと恵みをもたらす筈の神の火が
全てを焼き尽くす地獄の業火へかわる悪夢のカウントダウンが始まる。
中国に日本に世界に希望は生まれるのかー?
多くの暗喩を示しながら物語は終末を迎える。