op.ローズダスト

Op.(オペレーション)ローズダスト〈上〉 (文春文庫)
Op.(オペレーション)ローズダスト〈中〉 (文春文庫)
Op.(オペレーション)ローズダスト〈下〉 (文春文庫)












福井晴敏、ダイスシリーズ最新作。
これまでの作品同様、少年期に心に傷を負った主人公の青年と
人生にややくたびれた中年の魂が交錯し
青年の心が癒されるというダイスシリーズのパターンを踏襲した設定に
少々の飽きを感じるものの
それを補ってあまりある力と面白さがこの作品にはあった。


福井晴敏の作品が傑出している点は
描写がリアリティに満ちているところにある。
兵器やアクションではなく組織の書き方が、である。
架空の団体や人物を物語の中心に据えていても
既存の組織の体臭を的確に表現し筋書きにうまく絡ませるところに
福井作品の醍醐味があると個人的に感じている。
この小説も防衛庁や警察の組織に関わる人間の匂いや体温を
上手く書き表し、
筋書きに力強さを感じるエンターティメントに仕上がっている。





主人公、丹原朋希は控えめで不安定な性格ではあるが
防衛庁情報局・ダイスの秘密工作員としては折り紙付きの凄腕。
不幸な家庭で生まれ育ち、姉を死に追いやった義父を殺しことで
防衛庁リクルートを受け苛酷な訓練を経てダイスのメンバーとなったが
彼は、4年前に参加したのオペレーションLPの撤収をめぐり
キャンプ以来のバディであった入江一功と袂を分かち、
淡い気持ちを寄せていた堀部三佳を失っていた。


都心でネット財閥アクトグループが爆弾テロを受ける
被害者となったのは、防衛庁から天下った元官僚
狂信的な宗教団体の仕業と目され警察は捜査を開始し
丹原も警察に出向した形で公安の元"チヨタ"の並河次郎と
ペアを組み、テロリストを追うが
そこには、かつての同僚入江一功たちの姿が。



続々と発生するテロ、拡大する被害にもかかわらず
防衛庁警察庁の確執は捜査と問題解決の壁となり
自衛官としてはなく、個人として一功を追う朋希は
組織の軋轢によって窮地に陥る。
朋希と一功の因縁、テロリストを支援する巨大な勢力
現代日本の抱える病巣が白日の下に晒され
東京の臨海都市を舞台としたより凄惨なテロが始まり
全てを呑み込んで、物語は激動の結末を迎える。




この物語のテーマを上げるならば、
魂、そして言葉の再生である。


朋希の憧の女性三佳が残した「新しい言葉」がキーワードとなり
多くの登場人物に伝播していく。
朋希とかつての仲間達は、「新しい言葉」を見つけるため
既存のシステムをぶち破り、己の信ずるもののために戦う。
その戦いぶりは、鬼神さながらの激しさに満ちながら
どこか戦士の悲哀さを感じるものがあった。


何のために戦うのかー自己を否定する体制を守るために戦うのかー
割腹自殺した作家の言葉が呪怨のように幻聴すらしてきそうな
国の存在価値を問う重苦しい荷物を背負いながら
警察や自衛隊は何を考えて行動してきたのか。


9.11のテロ以降、国家や民族が、それぞれの言葉の再定義が進み
敵か味方かの踏み絵を迫られる一方で
我が国は一体何を決断してきたことだろう。
政治家は政治ゲームにうつつを抜かし、官僚は省益だけを守り、
国民はテレビやマスコミに踊らされ、新しい言葉を見つけるどころか
今そこにある危機すら見つけられないでいる。


どうにかしなければ先々行き詰まることを知りながら
誰も変えてこなかったこの国。
多くの矛盾を抱えながらも
生きていかなければならない我々はどうすべきなのか。
多くの疑問に対して解答を曖昧にした決着でありながらも
未来を感じる爽やかな終末に涙してしまった。



清濁併せ飲むなどの綺麗事を述べることではなく
血を吐くような想いで綴った言葉にこそ魂が宿るー
そう感じた作品だった。