日本国債

日本国債(上) (講談社文庫)日本国債(下) (講談社文庫)


この小説を読んでふと思い出したのは
9.11テロ直後、再開したアメリカの株式市場で
売り一色で相場が急落する中で
儲けを度外視して買いに回り何とか相場を支え、
テロに屈しない姿勢をみなぎらせた
愛国心あふれるアメリカのトレーダー達のことである。



物語は、架空の外資系証券会社で
日本国債を扱う中年ディーラー野田が交通事故に巻き込まれ
意識不明になったところから始まる。
別件のヤマを追っていた刑事佐島は、
被疑者と近い距離にいた野田の事故に何者かのカゲを
感じて、彼の勤めていた証券会社に捜査の網を広げる。


一方に事故に遭った野田の推薦で
アシスタントからディーラーに異例の抜擢された朝倉多希は
ディーラーとして初入札する日に、入れ札が予定された数に
達しない未達という前代未聞の事態に遭遇する。
そしてその未達によって、事件の渦中に巻き込まれた朝倉は
生死の境をさ迷う上司野田の仲間と出会うことによって
事件の核心へと近づいていく。



異常ともいえる発行額、安い金利、閉鎖された市場で
目先の利益確保に汲々とし財務省のお達しに
唯々諾々と従う証券会社や銀行
政治家と国民の財政に対する危機意識が欠落する一方で
日本の借金は国債の500兆円を含め800兆を越える。
我々はこの膨大な借金を子供に残してまで
この国をどうしようというのか。
そうした疑問を解決する術は政治家も経済学者も国民も
持ち合わせていないことは悲劇であり、そして喜劇でもある。


だが、たとえ解決する力と知恵を持たなくても
この問題を看過して先伸ばしはおろか
悪化させるわけには行かない。
「日本国の借金を日本国民が背負うとしないのは何かが間違ってる」
という登場人物の叫びに、日本国籍を有する誰もが
一度は耳を傾けなければないらないのではないだろうか。



推理小説としては、登場人物の背景が浅く
物語のオチがハートフルな描写で
いまいち物足りなさと肩透かしを食らった感があるが
ミステリーとしての基準に充分に達していると思う。