北方領土特命交渉


北方領土「特命交渉」



外務省休職中の佐藤優と政党大地の鈴木宗男の共著。
本のオビには、
「驚愕のインサイドストーリー 島は返還寸前だった!
 銃撃事件の真犯人は?」
との衝撃的な文句が打ってあった。




1956年の日ソ共同宣言以降、頓挫したままの領土交渉
1998年日露首脳による川会談の秘密合意を足かがりに
二島返還をめぐり交渉を繰り返した当事者同士による魂魄の対談は
現場を知るもののみの緊張感とリアルさに満ちていた。


暗殺めいた不可解な事故死が多発し、日本漁民が射殺され、
ロシアは崩壊前のソビエトに先祖帰りしたかようにみえる昨今
領土交渉が頓挫してもむべなかなと思っていた。
しかし、この本を読めばそうした憶測が間違いであり
全ては外務省担当官僚の怠慢が領土交渉の停滞を招いたことが
一目瞭然となる。


しかも、この本は交渉の核心部分を語らずとも
交渉に携わった担当者の実名を隠すことなくさらしている。
それは外務省を追われたことに対する意趣だけではなく
責任の所在を明らかにすることが国益に叶うとの判断からだろう。
勿論、個人的な怨恨で語られている部分もあるにはあるが
我らが10年間かけて築き上げた対ロシア交渉の信頼関係を
台無しにすることなかれというスタンスで貫かれている。


ペルー大使館人質事件のときの対応から
アンパン首相と個人的に揶揄し続けてきた故橋本総理だが
まるっきりの外交音痴の素人ではなく、
ことエリツィンのロシア交渉においては
二人の友人関係からそれなりに成功していたことや
それに続く、故小渕、森と三代に続き、
一貫した姿勢でロシアと交渉を続けてきたことが紹介されている。
また本書では2島先行返還を売国奴のごとく寄せられた非難に対して
そうした方針は官邸も了承済みであり
何よりもそれによって日露関係が動いたと反論を試みている。
現実の交渉には益をもたない4島一括変換にこだわって
いったい何の得にになるのか、
というのが二人の主張を明確な形で発している。


オビの返還寸前だったというのは、煽り過ぎにしても
返還までのシナリオが二人の頭には書きあがっており
それがある程度まで進んでいたのは事実のようだ。
それが不当であるか正当であるか、素人には判断つかぬが
担当者の実名を挙げて主張しているのは
自負ゆえの挑発ではないだろうか、
文句があるならかかってきやがれ、と。



それにしても鈴木宗男佐藤優が外交交渉を続けていたら
日露関係はどうだったろうか。
ホサれた人間のとらぬタヌキ、と切り捨てるには
あまりに惜しい外交のifである。