普天間交渉秘録

「普天間」交渉秘録 (新潮文庫)


防衛庁で、異例の4年にわたり事務次官を努め
同庁で「天皇」呼ばれ絶大な権力を
ふるったとされる守屋武昌氏。
自衛隊の次期対潜哨戒機、大型輸送機に搭載予定エンジンの
輸入代理店の指名争いに端を発した一連の騒動で
一夜にして渦中の人となり、収賄等の容疑で逮捕起訴され
有罪となり服役中……。


ダーティな話題とイメージに事欠かない守屋氏だが
一、二年前に「軍事研究」に「普天間交渉秘録」と同氏を
扱った記事が掲載された。
郵便料金割引制度の悪用したとして厚生労働相の局長が
起訴される過程において検察の証拠捏造が明らかになり、
同事件に関わった検察官が守屋氏を取り調べを行った事実を挙げ、
裁判は公正さを欠いであろう推論と塀の中に収監された氏を
憐れむ内容であった。


その記事を読んだ際、何故、その雑誌が守屋氏を庇うのか
理解できなかったが、「普天間交渉秘録」を通読し
その疑問は氷解した。
小役人風情の相貌でユニフォームでない背広組の人間であるが
彼もまたサムライであったことを遅まきながら知った。


普天間移設をめぐり
省益のためには国益を省みない外務省や海上保安庁
サボタージュのみなならず、悪意ともいえる情報をリークさせる。
往々に言を翻しては誠意のかけらすらない沖縄の首長たちや
沖縄に翻弄される日本の政治家やアメリカを相手に、
普天間返還という複雑な連立方程式の解を見事に見つけ出した守屋氏。
彼はそれのみならず、防衛庁の省昇格のために日夜奔走した。
風評から伺いれない激務の連続。
それを支えたのはいったいなんだったのか。


東大で京大ではなく、東北大出身で二流官庁と
蔑まれた防衛庁のプロパーがトップに登りつめれば何かと
風当たりも強いだろう。
しかし、守屋氏は多くの逆風にも負けることなく
見事にそれを完遂した・・・天晴ではないかと思う。
強権とか強引とかいう批判は与するに値しない。
手法や評判を気にしていたら
何ひとつまとめ上げることはできないことを知っているのは
困難な道を突き進む者だけである。


推定ではあるが、彼は強過ぎたゆえに、或いは有能過ぎたゆえ
政治家から疎まれ、批判を浴びた。
しかし、ただの庁内政治が上手いだけの官僚ならば
四年も庁内のトップに居続けることはできない。
何らかの権謀術数があったとしても
彼だけにしか連立方程式の回答を見いだせなかったから
トップであり続けたのだろう。
サイドが甘く、退職後に苦役を受ける境遇となってしまったが
彼の業績はそれを差し引いても賞賛に値する。


それにしても腹立たしのは、己の無知とその愚かさに
気づかないものどもの厚かましさ、である。