国家の罠


私の好きなジャーナリストの一人櫻井よしこ氏によれば、
北方領土問題が解決ないし前進しないのは、
橋本龍太郎、鈴木宗男、東郷和彦、佐藤優が悪いとのことだ。



だが、鈴木宗男連座して捕まった元外交官佐藤優氏の「国家の罠」によると
鈴木宗男氏や東郷和彦氏らは
色丹、歯舞の2島返還を先行させてロシアとの間に平和条約を締結し
その後に国後、択捉の帰属を認めさせ、日本に返還させるシナリオを書き
その実現のために最大限の努力をしていたとのことだ。
彼らが外務省から追い出されたのは、外務省のある派閥にとって
田中真紀子を排除した鈴木宗男とその一派が
邪魔になったからだと佐藤氏は述べている。


外務省における思想は親米主義、アジア主義地政学論の三つに大別され
これに研修語学別派閥(いわゆるスクール)と経験した業務畑別派閥(マフィア)が
加わる非常に細かい社会が形成されている。
これは機密の保持や専門性の発揮という面では非常にすぐれているが
その反面、犯罪や横領の温床になりやすい。
正直、鈴木宗男とその側近であるロシアスクールの連中も
競走馬を買った松尾某の類と思っていたがその認識は早々に改める必要がありそうだ。


ムネオハウス云々と汚職の象徴のように云われた北方四島の援助にしたところで
エネルギー不足に苦しむ択捉、国後の住民のためディーゼル発電機を供与し
心理的に日本に取り込もうと工作が根底にあったことが分かりやすく説明されている。
外交の専門家ではないので、これら一連の活動が正解だったかどうか断言できないが、
橋本、小渕、森と続く政権がこの工作を了承をして実施していた施策を
あとからあれは違法だなんだかんだとイチャモンを付けて逮捕、起訴するのは
酷すぎるような気がする。


外交というのは、テーブルの下で情報ややりとりすることが多く
それを白日の下にさらしてしまえば、積み重ねた交渉が無価値になるだけでなく
個人的信用もなくなり、もはやどんな取引も不可能になる。
櫻井よし子氏は、外交に個人的感情を持ち込む愚と厳しく指摘しているが
外交に限らず情報のやりとりや取引は、個人的な信用が物をいう。
勿論、国家対国家、組織対組織で継続的に交渉できればそれにこしたことはないが
そう問屋が卸さないのが外交であり、結局個人的なコネクションに頼らざるを得ない。
その信用とコネクションを外務省で働く同僚や好配のために残すため
自らの潔白を信じながらも、国益のために身を明かす証言を拒否したという
佐藤優氏の言い分は一応は筋がとおっており、
僅かな瑕疵を見つけては面白おかしく煽りたて大騒ぎして
田中真紀子を支持するようなマスコミや国民よりは
信用して良いのではないかと個人的には思う。



奇しくも2月号の諸君で森前総理のインタビューの記事に
田中真紀子が外交に与えた失点が指摘されていた。
東郷和彦氏は、やる気のない能力がない奴よりやる気のある能力のない奴が
一番組織に悪いとの意見を開陳する場面がこの本の冒頭にあるが
そう考えると鈴木宗男氏の評価はともかく
あの女性を外務大臣に指名したことが日本の外交を大きく後退させたことに
間違いはないようだ。



国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて