失敗の科学

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元英国卓球五輪代表選手にしてジャーナリストの
マシュー・サイドが失敗をテーマに
医療、航空、司法のスタンスについて
まとめたルポルタージュ的な一冊

米国では1日1万件近く発生している医療事故により
年間4万人前後の患者が亡くなっている。
事故を分析して、その教訓を生かすことができれば
多くの命が守れるにもかかわらず
医療の現場は「不幸な事故」「最善を尽くした」という言葉で
真実を隠蔽する。
現場で伝えられている処世術に従っているといえば
それまでだが失われるものの大きさを思えば、
それで是とし続けることに疑問がわいてくる。


医療現場が言い訳の文化に染まり、失敗を隠蔽するならば
司法の現場も裁判官、検事の無謬性が尊重され、
多くの失敗が埋められたままの状態が続いている。
DNA検査が導入され多くの事件で証拠が覆されているにも関わらず
それを改めることはおろか、認めることすら憚られている現状に
思わず身構えてしまう。


失敗を頑迷に認めず、あるいは臆病なまでに責任回避に至るのは
人間の本質に基づいた行動であり
必ずしも現場で働く個人の咎とは言い切れないものの
脳科学進化心理学などが人間の行動を解析しつつあるいま
旧態依然の姿勢を続けるのならば、近いうちに
批判や議論の的となることだろぅ。


一端事故が発生すれば、大惨事となる航空機だが
2010年代の航空事故による死者は全世界の航空機会社の統計を合計しても
百人単位であり、事故を起こす確率は何百万分の一となっている。
自動車と違い、その場に待機することができない上に
気象の影響をダイレクトにうける航空機は
ことのほか安全なのである。
それは、航空業界が多くの事故や事故一歩手前の経験から学び
問題を発見しては迅速に修正する文化を作り上げてきたからに他ならない。
特に1978年のユナイテッド航空173便の
燃料切れによる墜落事故による反省として
ヒューマンファクターに注目してクルー・リソース・マネジメントを
各航空会社に展開した対処は見事の一言に尽きる。

明王エジソンは、
「失敗などしていない、1万とおりのうまくいかない方法を見つけただけだ」
という言葉を残しているが、
失敗を成長の糧ととらえるか、否かの積み重ねは
人が思うよりも大きな違いを生む。