誇り

選手の演技がメディアの恣意的な報道や結果のみで
無責任に語られる一方、
採点に対して懐疑的な意見が多く飛び交い、
競技の本質から遠い場所が論点として
取り上げられる状況が続くことは
それに携わる競技者として不本意なことと思う。


そんな状況で
多くの観客を魅了した彼女の演技は
フィギュアとは何かを突き詰めた究極の答えであり、
美しさを競う競技の本質を物語っていた。


プロ、アマ、経験の有無を問わず多くの賞賛の声が
彼女のもとへ届けられているのをみるとき
競技者の価値は
勝利によって語られるが
真の評価は審判席の小難しい理屈や説明ではなく
観る者の心に響く感動の大きさで
決まるのではないかと思う。


全てのジャンプに三回転を絡め
ほぼ成功させた演技もさることながら
不可解な判定、自ら失敗、外野の無責任な批判、
そうした窮地に立ちながら
三回転という自身の競技の原点にこだわり
競技に対する情熱を失うことなく
真摯に臨んだ姿勢は
何物にも替えがたい美しさを放っていた。


ひょっとして彼女の演技は
彼岸に渡ってしまった彼女の母だけに
捧げられたものかもしれない。
だとしても、いやだからこそ彼女の演技は
点数ではなく美しさで語ることが相応しい。
フィギュアスケートとは美を競う競技であって
点数だけを競う競技ではない。
点数はただの手段に過ぎず、
芸術を点数で語り、
それを絶対視する行為の愚かさを
多くの人間が忘れているのではないだろうか。


彼女の演技は会場にいた誰よりも
素晴らしく、そして美しかった。
誇りに足る敗北は、卑しい勝利に勝るー、


負け惜しみということなかれ。


以上、なんちゃってスポーツマンのひとりごとである。