淫らな罰


淫らな罰 (光文社文庫)
侵略者協会の会合に行く道中の電車で読むが
タイトルからしてヤバ系の人と間違われると恥ずかしいので
ブックカバーをしてしまった。


作家として、という修飾語がつくが
とりあえず美人の部類に入る月島美百合は
激しい中傷をネット上で浴びせられる。
月島は、その匿名の誹謗が同期デビューの晴海鷹夫に
よるものであることを察しているが
関わらない方が無難であると無視し続けた。
ところがある時、その書き込みがピタリと止む。
不可解なものを感じた月島に
晴海が失踪したとの報が舞い込み、彼女は得体の知れない恐怖を感じる。
そしてその予感は
テレビ局の収録を終え、マンションに帰った時に現実のものとなった。


嫉妬、羨望、愛憎の人間の負の感情と欲望をむき出しにする男と
自分に対する悪意と暴力を作家としての醒めた目で観察する女の
対立した構図の表題作「淫らな罰」
自分のコンプレックスを隠すために
見栄を張るデブ女の心理と行動を描いた「暗かった帰り道」
子供の命すら怜悧に切り捨てて人生設計を進める女と
男に翻弄される女の奇妙な友情を題材にした「日向の影」
人の噂を振りまいて情報通を演じる馬鹿女の恐怖体験「隣の花は黒い」
夢かうつつか幻か、元アイドルの不思議譚「ひとり奏でる恋の歌」


どの作品も女性の感情をむき出しに描いているが
ステレオタイプな人物はでてこない。
ただ共通するのはどの女性も現代的ということである。
自由だか、権利だかしらないが、
マスコミらが流す情報に踊らされる現代の女性の愚かしさと小賢しさを
醒めた目であらわしている。


自分の頭がいい、或いは美しいと錯覚し
世界にフィルターを掛けたとしても、現実は残酷なまでに現実である。
自分に都合のいい話しか聞こえないし、聴かないのは
女性に限ったことではないが
自分自身が見えていないゆえに悲喜劇に巻き込まれる姿は
やはり哀れとしか言いようがない。
それを女としての業だと割り切るのは簡単だが、
敢えてそういわず、愚かなだけと斬って捨てるのが
この作家の最大の特徴にして魅力ではないかと思う。