スローカーブをもう一球


群馬県では進学校で名高い高崎高校
今年の選抜に出場した際、触れられることが度々あった
山際淳次の「スローカーブをもう一球」


なんちゃってスポーツマンにして本好きを自覚しているtacaQとして
この本を読む機会が20年以上なかったというのは
何か不思議な気かする。


この本は、ノンフィクション作家の山際淳次が
紡ぎ出したスポーツノンフィクションの短編集である。
高崎高校の選抜出場までの快進撃を綴った
表題作「スローカーブをもう一球」のほか
夏の甲子園でいまだにその熱戦が語られる
簑島高校対星陵高校の延長18回の激闘を描いた「八月のカクテル光線」
またボクサーやスカッシュの選手などを題材にして
山際氏独特の視点と語り口でスポーツの世界を俯瞰している。



その視点は、競技者に限りなく近いが
あくまで第三者としての立ち位置を踏み外していない。
すぐ自身の視点と交錯する沢木耕太郎とは比較してみると
その違いは明瞭である。
今風にいえば、どこかクールなのである。


その筆致ゆえか対象としているアスリート達も
それぞれが活躍するスポーツと現実世界との距離を
感じることがままある。
スポーツをある種の虚構ないしは現実の生活には
全く無関係の別世界としてとらえ戦っているようにも見えるが
別世界ゆえに、それぞれがそれぞれの流儀を持ち
その流儀を貫こうと生きている様がまた小気味いい。


個人的に「八月のカクテル光線」がとても懐かしさを感じた。
それは、この試合の大半をテレビで見ていて
最期簑島高校がサヨナラ勝ちを収めたシーンを
未だ鮮明に覚えていることもさることながら
甲子園常連高校だった簑島高校ナインが未体験である
カクテル光線の下でのナイター試合を希望していたとする文章に
自分の拙い体験が重なり、ささやかな青春時代の思い出に
浸ってしまったからだ。


12月のカクテル光線をもう一度、とひとりごちる

スローカーブを、もう一球 (角川文庫 (5962))

スローカーブを、もう一球 (角川文庫 (5962))