月島慕情


月島慕情 (文春文庫)


浅田次郎の未読作品、
かつ佐々木悟郎のイラストが表紙である文庫本の
購入の誘惑にうち勝つことのできる人間は
意志の強い人間か
両者の技を全く知らない人間のいずれかである。


tacaQは、
自分の意志の弱さゆえ、流され
自己の欲望に忠実に従ったが
そこにまっていたのは、無形の幸福であった。


降ってわいたような幸運の身請け話に
吉原の花魁のとった意外な行動ー表題作「月島慕情」
旧軍で戦争経験のある陸自将官の矜持「雪鰻」
陰日向に他人を支え続けた女性の生涯「冬の星座」
元銀行員とベンチャー企業の交錯「シューシャインボーイ」など


冬の木枯らしに晒されながらも
ふところを暖かく感じさせる数編の物語が納められていた。


浅田次郎作品の最大の魅力は、無償の愛である。
その愛を貫く一途さに、読者は心打たれ、涙する。
時代や人物の男女、老若など、小説の設定に差はあれ
その愛だけは、どの物語も貫かれている。


他人様のお役に立つー日常、ごく普通に使われている言葉だが
その言葉だけで、こうも美しく豊かな人生が
おくれるものだろうかー自分の半生を照らし合わせて
考えさせらつつも
幸せな時間をもたらしてくれた。