日銀券

日銀券 下巻
日銀券 上巻



大学で経済学の教鞭をとっていた中井昭夫は
その見識を買われて日本銀行の政策委員に選ばれる。
長年連れ添った妻を亡くした彼は
英国の知人から委員に就任する前に勧められたアフリカ旅行で
同じく一人で旅をしていた美女・芦川笙子と出会う。


「ゲームをしませんか」
と意味ありげな笙子の言葉で始まった二人の関係は、
豪華列車の中のブリッジルームから
日本銀行へと舞台を移して続くのであった。


2000年以降、公定歩合が0%という異常事態が長く続くも
景気は回復せず、短期市場は冷え切り、相場は活気を欠いた。
誰が日本経済をここまで衰退させたのか。
我々が受け取る筈の利子は何処に飲み込まれたのか、等
さまざまな矛盾と問題点を次々と指摘し、
アメリカの呪縛から逃れるために、
日本の金融関係者のあるべき道を示した物語と位置づけることができる。



ただ、短期市場や国債など門外漢にはとっつきにくい経済的な要素を
読みやすくしてあるのは評価できるが
昭夫と笙子の関係の描写などは中学生の恋愛物語であり
後半のアメリカ政府に大打撃を与える金融テロに関しても
その設定が雑だった点は否めず
ハゲタカほどのカタルシスを味わうことはできない。


とりあえず、経済を身近に感じるには手頃な小説だと思う。