ハゲタカ


ハゲタカ(上) (講談社文庫)ハゲタカ(下) (講談社文庫)


1980年代後半アメリカニューヨーク
鷲津政彦は将来を嘱望されたピアニストとしての道を捨て
バイアウトと呼ばれる金融の世界に踏む込む。
債権回収や企業買収、再生で名を売った鷲津は
ゴールデンイーグルと呼ばれ欧米で絶大な信頼を勝ち取り
バブル崩壊後で何処も彼処も大量の不良債権を抱えた
1990年代後半の日本にファンドを立ち上げて乗り込む。


銀行の債権を次から次へと買い叩き、ビジネスで対立する者を排除し
白人の手先、バナナ野郎、ハゲタカ等々ありとあらゆる罵詈雑言を浴びながらも
彼は冷静にビジネスを日本で進め、着々と成果を上げる。
そして人知れず約10年前に自殺したある大阪アパレルメーカー社長の事件を
執念深く追いかける。
彼をビジネスに駆り立てる原動力は何か、そして鷲津とその事件の関係は?


迫真の金融小説にしてエンターティメントと呼ぶに相応しい物語。


MBOなどの経済の専門用語がふんだんに溢れ、
企業の買収や再生がメインの重く堅苦しい話でありながら
非常に馴染みやすい小説である。
それは大阪の豪商から発した三葉銀行、創業者一族による放漫経営の太陽製菓
融資審査の温さから温泉銀行と揶揄された栃木の地銀足助銀行など
容易にモデルを特定できる企業が登場しているせいもあろうが
物語の筋書きが非常に単純で明快であるからだ。


この小説は勧善懲悪ではないながらも、
悪辣な経営者、銀行家バンカー、文字通り日本を漁りに来た外国人らを
主人公鷲津が次ぎ次ぎとねじ伏せ、叩き潰す様は水戸黄門のそれに近い。
読んでいて非常に小気味良く感じ、爽快感する覚える。
それ故、非常に難解な用語が多くとも、読者の多くは
力強い主人公の行動に興味を覚え、
知らず知らずに物語に引きずり込まれてしまう。




外資系ファンドと聞くと日本人ならハゲタカと呼ばれる彼らに
畏敬の念をもって眺めるか、嫌悪感を抱くかのどちらであろう。
そういう自分も長らく「小説・ザ・外資」等の影響でかなり後者の色が濃かった。
しかし、死肉に群がり貪り尽くすハゲタカ外資よりも
大勢の社員を抱えながらも無責任な言動を繰り返したり、
あるいは副業に走り本業を危うくした放漫経営者、
過剰な融資をした挙げ句、貸し剥がしにかかり金融機関
そして知らる知らざるとに関わらずそれに荷担した者らこそ
まずは糾弾されてしかるべきだったのではないだろうか。
当事者としてのけじめをつけず今なおのうのうと暮らしている者が
少なからずいる現状を思うと腹の底から怒りがこみ上げてくる。



NHKで現在放映されているドラマは
原作の設定をかなりいじっているようである。
それは現在も苦闘している企業を慮ってのことか
それとも日本経済をダメにした政治的圧力故の変更か?


(過去関連記事)http://d.hatena.ne.jp/tacaQ/20020504
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小説 ザ・外資

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