人間はありがとうを忘れたら生きる資格がないんだよ
おそらく作者は、以前執筆中過労で倒れて意識不明で病院に運ばれた時に
この小説のアイディアが浮かんだのではないだろうか。
出勤前に読んで、大泣き。
以前にも借りて読んだことがあるのだが、文庫本を購入して再読。
面白かったという記憶はあったのだが、これほど泣ける作品であったことを
失念しているとは・・・tacaQの記憶も自分でいうほどあてならんものである。
主人公は、3人の死者。
生前、それぞれ現世にやり残したことが気かがりで
現世に3日間だけもどり生前付き合いのあった人間と会い
それぞれの人生の意味を確認する物語である。
この作品は「プリズンホテル」「王妃の館」「オーマイガッ」のノリである。
ドタバタで笑わせて、登場人物が威勢のよい啖呵を切って
読者を泣かせる浅田次郎お得意のお涙頂戴仕立てである。
この小説に限らず、浅田作品が泣いてしまうのは
登場人物が健気だからである。
自分の利害を度外視して、
正邪や善悪のために貫くことが難しい道を通すその健気さが
読者の感動を誘い、共感を呼ぶ。
産みの親に礼をいうために、地獄を覚悟で協力者に事情を打ち明ける小学生
長年付き合った男の幸せのために身を引くハイミスのデパガ
親のない子供を育てその子供が道を誤らないために地獄に堕ちる任侠
そして何より子供のために、自らが地獄に堕ちようと身代わりを申し出る元公務員
それぞれがそれぞれの立場で己が分が以上に、何かに忠実であろうとする。
義務でも強制でもなく、天に太陽があるがごとくごく当たり前のように。
何事かにつけて損得勘定が幅をきかせて、小賢しい人間ばかりが蔓延る時代において
この物語はどこにもでもありそうで、どこにもないファンタジーであるが
そうしたファンタジーを演じられなくても、語る人間でいたいと思う。
幸せとは損得ではなく、心のありようにある気がする。
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