輪違屋糸里


輪違屋糸里 下 (文春文庫)
輪違屋糸里 上 (文春文庫)



壬生義士伝」に続く浅田次郎新撰組第二作
主人公は京都の芸姑の置屋輪違屋に身を置く天神・糸里
風雲急を告げる幕末の京都を舞台に天神、志士達らの間で
繰り広げられる男と女の愛憎の悲喜劇。


父親の顔も母親の温もりも知らず
漁村から芸姑として京都・島原に売られきた糸里は、
厳しい花街のしきたりの中で育ち、
芸姑としては最高位である太夫の手前の天神として
名が知られつつあった。
雅やかな長い伝統で営まれたきた都だが、
黒船来航以降、国内に尊皇攘夷の嵐が吹き荒れ、
京都は志士ないしは浪士達の巣窟となり俄に騒擾となっていた。


市内の壬生に屯する会津藩預かりの浪士組は
"みぶろ"と呼ばれ浪士達だけでなく市民から畏れられる存在で
みぶろの局長にして元水戸藩士・芹沢鴨は、
無礼打ち、火付け等々京の街で狼藉の限りを尽くす。
糸里はそんな浪士達を裏から束ねる土方歳三に思いを寄せるが
大恩ある音羽太夫を芹沢に斬られ、心に微妙な変化が生じる。


売り掛け回収にきたところを手籠めにされ
以来芹沢の愛人となってしまったお梅、
芹沢の同士・平山の愛人となり子を身籠もった糸里の友人、吉栄
男達に翻弄されながらも、京に生きる女達はささやかな幸せを望むが
時代はそんな女達の願いを嘲笑うかのように大きく動こうとしていた。



子母沢寛以来、美化される一方の新撰組だが
この小説は、新撰組結成以来の華やかな表ではなく
結成までの負の部分を生々しく描いている。
武士階級にして尊皇攘夷の魁である芹沢に対して
農民出身というコンプレックスを抱く近藤勇以下の試衛館組。
何故、近藤らは芹沢暗殺という挙に打ってでたか。


この小説は、新撰組隊士の持つ内面の苦悩を
女性の視点から描くことによって
英雄として語られることの多い彼らの内実を
掘り下げようとすめ試みであり
あたかも、京都の街で狼藉の限りを尽くして悪の権化として
語れることの多い芹沢についての弁明のようでもあった。
司馬作品のようなカタルシスを求めて読むとちょっと難儀である。





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壬生義士伝〈下〉

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