憑神

憑神


時は幕末、
先祖が徳川家康の影武者を務めたという別所家の
次男に生まれた別所彦四郎が
貧乏神、疫病神、死神に取り憑かれては
引き起こす笑いと涙の騒動記。
作者十八番おはこのお涙頂戴の人情譚。
先日映画館に行ったところ浅田次郎のこの小説が
映画化になったことを知り、速攻で近所の本屋で立ち読みしてきた。





幼い頃より武芸に秀いでた主人公は、次男でありながら
その優秀さを見込まれて婿養子となるものの世継ぎを作った途端に
養子先を追い出されてしまう。
同じ御徒組出身で彦四郎より出来の悪かった榎本釜次郎は
外国に留学するほど出世を遂げ、時代の流れに一人取り残され
世の儚さを嘆き、一つ神頼みとでもすたれた祠で手を合わせた途端
霊験あらたかに貧乏神に取り憑かれてしまう。
困窮した貧乏ぐらしに追い討ちをかけるような借金取りの非情さに
彦四郎はとっておきの禁じ手を使い乗り切るが
貧乏神と縁切りしたのも束の間、次にまたとんでもない神がとり憑く。


幕府は大政を奉還し、鳥羽伏見の戦いで破れ風雲急を告げる中で
否応なく激動に巻き込まれる彦四郎は
武士の体面、先祖伝来の家伝などもはや一文の価値に値しないもののために
一つの決断を憑神に伝える。



そんなの有り得ねぇーだろ、と思いつつも
歯切れのいいチャキチャキの江戸言葉によるテンポのいい会話と
浅田次郎お得意の泣かせる長口上に思わず引き込まれ
登場人物につい感情を移入してしまった。


新しい時代について行けない古い人間でも、
外れ籤ばかりの人生でも、男として筋を通せたら
それもまた良しではないだろうか。


以上、高倉健のよう古い男でありたい中年男の読書感想文である。