スターリン秘録


異論もあるだろうが、
共産主義は、核兵器と並び人類が生んだ最も忌むべきもであると個人的には思う。
スターリン秘録」には、ソビエトのかつての英雄スターリンがもたらした災禍が
ありありと記されている。


神学校に通う神の子であったスターリンは、ある時共産主義に目覚め、学校を退学し
活動に奔走し、シベリアへ流刑されては脱走を繰り返していた。
ボリシェヴィキ革命等を経て、共産党の要職に就きレーニンの死後
どさくさに紛れて権力を奪取し
政敵や赤軍の高級将校を次々に粛正し、自己の地位をより強固なものにした。
WW2時、ヒトラーのドイツと独ソ不可侵条約を結び、
時間を稼ぎドイツを出し抜こうとするが逆にヒトラーに騙されて奇襲を受ける。
ラムゼイことゾルゲからは、盛んにドイツ軍の行動について警鐘がならされたが
自己保身と視野狭窄に陥った独裁者がこの貴重な情報を無視したことと
有能な将校をスターリンが殺してしまったことによりソビエトは開戦当初は大敗北を喫する。
その後、敵の捕虜になった者は悪意の脱走者とみなし、
その家族は祖国を裏切った脱走者の家族として拘留するとした赤軍最高司令部指令270号や
戦場において退却する者の処刑を可としたソ連国防人民委員令第227号によって
恐怖によって兵隊をコントロールし、戦線の崩壊をかろうじて防いだ。


スターリングラードの戦いで勝利し、戦争の形勢を逆転させることに成功したが
その勝利は思わず顔を背けたくなるような悲惨極まりない戦いであった。
スターリングラードの戦いが始まった時点で同市には60万の市民がいたが、
市民の疎開を禁じたため1週間で4万人の市民が死亡した。
同市攻防戦を巡ってソビエト軍の死者は四十数万人を数えたが、そのうち1万以上は
味方によって射殺されたものである。
WW2はソビエトでは大祖国戦争と勇ましい名で呼ばれているが
ソビエトでは同期間中1500万から2000万の人間が戦死している。
WW2の死者総数が3500万人(推定)とされていることからも
ソビエトの戦いの激しさとそのおぞましさが伺い知れるだろう。


独ソ戦では、資金を集めや戦意高揚のためユダヤ人やキリスト聖職者を厚遇するが
戦争が終了するとこれを弾圧、次々に公職から追放し、処刑した。
戦争に先立ち国内いるドイツ系移民や技術指導のためソビエトにいたドイツ人を
全てスパイとして見なし、これも全て追放処刑したが
ナチスに占領された地域の住民もドイツに協力的であったとの理由で
中央アジア強制移住させたり、排除した。
この措置によって地上から姿を消した少数民族もあった。


スターリン時代のソビエトといえば
五カ年計画により遅れていた工業力を飛躍的に向上させることに成功したが
それは強制労働という無償の労働力があったためである。
しかもこれは、たまたま労働力があったのではなく、
五カ年計画を成功させるために無理矢理労働力を作り出したのだ。
過酷なノルマを達成するため、人民は次々と補導され強制収容所へ送られた。
対外的に強制収容所は矯正するための施設であって囚人の天国といった宣伝がなされ
西側でも一部信じられていたようだが、実際は囚人を裸足で凍土の上を移動させたり
冬でも着の身着のまま、或いは裸同然で一日12時間を超える重労働を割り当て
少量のしかも腐った野菜しか配給せず、勿論病気にかかっても治療など施すこともなく
一年ともたず死亡する囚人が決して珍しくないほど過酷極まりないものであった。
スターリンが最高権力者として君臨している間、強制収容所に送れられた人間は
1千万とも2千万ともいわれる。
粛正や虐殺を思うままに繰り返したことからスターリンを赤い神と形容する記述もあるが、
これほど猜疑心に凝り固まり、欲と権力、血にまみれた邪神は、共産主義国家をのぞき
見あたらない。



スターリンは1958年に死去し、フルシチョフによるスターリン批判が行われ
スターリンはその功績を半ば剥奪されるが恐怖による支配というスターリンの手法は
その後継者に受け継がれ、国内だけでなく東欧諸国にも及んだ。
それはハンガリー動乱プラハの春の例を見ればそれは明らかだろう。
スターリンを否定しながら、その手法を継承したのは
共産主義というフィクションを成り立たせるためには、鉄の制裁が必要だったからである。
手法を含めたスターリン体制の全てを否定することは、共産主義を全否定するに等しく
共産主義がフィクションであることを認めることに他ならない。
フィクションをフィクションでないと言い張るためには、
民衆を力によって締め付ける以外方法がなかった。
よって、ゴルバチョフグラスノスチ(情報公開)を行った時点で
共産主義の虚構が暴かれるのが必然である以上
スターリンが築き上げた帝国は崩壊が決まっていたのか知れない。


スターリンは死んで彼一代で築き上げた帝国は前世紀に崩壊したが
スターリン強制移住させたことによって生じたチェチェン人の怨恨は未だ火を吹き
彼の手法を引き継いだ小王国はまだ存在し、
この国にもスターリンの指導を受けた野坂や徳田の流れを組む輩が平然と闊歩している。
共産主義などはこの地上から早く消滅してしまえと心の底から思う。




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