盟約


ボケボケしている間に「遭敵海域」なる面白そうな本を
C.W.ニコルが書いていたので、購入してページを開くと
名作「勇魚」の続編が「遭敵海域」との間に出版されていることを知った。
早速アマゾンで注文し、読んだのが「盟約」である。


勇魚は、幕末大地の勇魚とり甚介が、ふとしたことから海外にわたり
縦横無尽に活躍する異色の冒険譚だが、
盟約はこの甚介がカナダに移住して生んだ三男が主人公である。
カナダでは日本人という理由で学校でいじめを受け、それに反発して暴れていた三郎は
日本にわたり、日本の教育を受け周囲からの勧めもあり兵学校に入学し海軍士官となる。
英語に堪能ということから、艦船勤務ではなく諜報活動を主に命じられる三郎だが
ロシアの情報員や時には日本陸軍の諜報部を相手にして単身で互角に渡り合い
窮地に陥っては得意の体術で敵をねじ伏せて危機を突破する様は、
読んでいて小気味良く非常に痛快であった。
また、三郎とロシアの美女スパイとの悲恋も物語に色を添えており
冒険譚としてなかなか楽しめる部類に入る。
同時代を描いた伴野明のミステリー「霧の密約」より面白いことは保証する。


結論として、この物語は前作勇魚の登場人物が登場し物語の主要な位置を占めるが
海洋冒険小説であった勇魚とは趣を異とし、全く別の物語として読むのが適当である。
それにしても、日英同盟が、あれほど親密だったとは
この小説を読むまで考えたことがなかった。
日本人より日本に詳しいウェールズ人に、再び教えられてしまった。



盟約 上 (文春文庫 ニ 1-4)

盟約 上 (文春文庫 ニ 1-4)