身捨つるほどの祖国ありや

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120511/erp12051107310000-n1.htm

独に流れた…ソ連対日参戦のヤルタ密約情報 「小野寺電」に有力証拠

第二次大戦末期のヤルタ会談直後、ソ連が対日参戦する密約を結んだとの情報を、スウェーデンの首都ストックホルムにあるドイツ公使館が把握、打電していたことが英国立公文書館所蔵の秘密文書で明らかになった。ストックホルムでは、陸軍の小野寺信(まこと)駐在武官がドイツの情報士官と緊密に情報交換しており、武官が得た「ヤルタ密約」情報が士官を通じ、ドイツ側に流れていた可能性が出てきた。新たな情報経路の判明はソ連参戦の半年前、大本営に同じ情報を送ったとする小野寺武官の主張を支える有力な根拠になりそうだ。(岡部伸)

最近、警察小説等で活躍中の佐々木譲だが
個人的には太平洋戦争三部作「ベルリン飛行指令」「エトロフ発緊急電」
ストックホルムの密使」がパーソナルベストだと思う。


特に、戦局利あらずと悟り、ソビエトを仲介した講和の工作を
秘密裏に始めなければならない窮地に追い込まれた日本に
スウェーデン駐在武官が独自の諜報網で拾った
ソビエト参戦情報を伝え、ソ連参戦前に一日も早い終戦を期して
奔走した実話を小説化した「ストックホルムの密使」は
個人的に日本ミステリーの五本指に入る傑作作品と断言する。


但し、文庫版「ストックホルム〜」のあとがきには、
寺山修司の名文「身を捨つるほどの祖国ありしや」を引用し
国家を憂う者を全体主義者として見下すリベラルな解説文が附され
作品の感動を損っているのが非常に残念ではある。
作者本人の意図かどうか不明だが、画竜点睛を欠くにしても甚だしい。


国家の命運を握った者がプライドと命を賭けて職に奉じた挙句が
見事なまでに上滑りし、惨憺たる失敗に終わり、
国体崩壊と焦土化した国土という悲惨な結末を導いたことに
異論はない。
為政者のみならずその時代に生きた人間の選択が
間違っていたということも否定はしない。


しかし、それを愚かと軽侮したり無知と嘲笑する権利は
現代に生きる我々にあろう筈もない。
原発の収束に何一つ責任をとらない政体や体制を創り上げ
六十年以上前の敗戦以下の醜態をさらしている現状を棚にあげて
先人を貶める行為は、恥知らずというより他はない。
責任を他人に転嫁し、国や社会を貶めるのは個人の自由だが
羞恥心を欠かずにしてその自由を選択できる者を
良識ある大人と認めることはできない。


エントリー冒頭で引用した記事の小野寺電が発出された経緯を含めた
小野寺信氏のストックホルムの活動については
夫人が記した「バルト海のほとりより」に詳しい。
朧気なる自身の記憶を辿っても
同夫妻の公私を問わない活動に、国家とは、あるいは
奉職とはかくあるものとその重さを
真っ向から背負った人間の偉大さを偲ばずにはいられない。


祖国はありやとの問いかけに
答えは己の生き方にありと我思う。


バルト海のほとりにて―武官の妻の大東亜戦争

バルト海のほとりにて―武官の妻の大東亜戦争

ストックホルムの密使〈上〉 (新潮文庫)

ストックホルムの密使〈上〉 (新潮文庫)

ストックホルムの密使(下) (新潮文庫)

ストックホルムの密使(下) (新潮文庫)