1967年、アメリカのベトナム反戦デモにおいて
マルク・リブーが写した銃を突きつける兵士に
花をささげた少女ジャン・カスミールの写真を初めて見た時、
その写真がもつ強烈なメッセージに、しばし言葉を失った。
だが、実はこの少女、ドラックに溺れたヒッピーであって
反戦デモに参加したのも仲間とつるんで行動していた流れに過ぎないという。
その事実は印画紙のどこを探しても見つけることはできず
ただ、銃剣の前に立ちふさがった無防備で愛らしい少女という強烈な印象だけが
人々の記憶に刻みこまれる。
そうしたことを考えれば、報道写真の価値は、
実際の出来事を客観的に表現する記録性もさることながら
被写体と撮影者の間だけに存在する物語によるところが大きいような気がする。
日曜日、NHKスペシャルの
「終戦60年企画一瞬の戦後史スチール写真が記録した世界の60年」で
リブーの写真について放映されるということで、ビデオにとっておいたのだが
基本的には正月に放映されたものリメイクで、
最近のNHKらしい「戦争反対、平和万歳」的なつくりの番組だった。
NHKの制作姿勢を軽佻浮薄と切り捨てて無視することは簡単だが、
そうした消極的な態度が、のちのちの禍根となる場合がある。
ベトナム戦争を研究している松岡完氏は、同戦争における米軍の敗因の一つに
米軍が戦場での報道を管理できず、多数の戦場の映像が米国民に届けられ
結果として世論の支持を失ったことを指摘していた。
だとすれば、リブーの写真もそうした世論の形成とアメリカの敗戦に
大きく関与したことになる。
大東亜戦争において、写真等のプロパガンダで
日本との戦争について国民の支持を得たアメリカだが
写真等の反戦プロパガンダによって敗戦に追い込まれるだとすれば
歴史の皮肉としか言いようがない。
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