ロバート・キャパ

「キャパとゲルダ


スペイン内戦でフランコ将軍と戦った民兵の倒れる写真で
戦争写真家としての地位を築いたロバート・キャパ
彼は、恋人にしにて写真仲間であったゲルタ・タローを
スペイン内戦中に事故で失っている。


「キャパとゲルダ」は、ともにユダヤという出自が理由で
故国を去り、ヨーロッパで居場所を探していた二人が出会い
協力しながら写真を売り歩きながら絆を深め
ゲルダの死によって永遠の別れを告げた悲劇的な恋の記録と
その後のキャパを断片的に記している。
ありていな感想を言えば、キャパに興味のある人間なら
手にとるだろうが、それ以外の層に売るとなると
正直厳しいのではないだろうか。



さて、キャパはその後、第二次世界大戦
連合軍に紛れ込み写真を撮りながら
イギリスで"ピンキー"と呼ぶ赤毛の女性と恋仲になり
戦後はアメリカでイングリッド・バーグマンと浮名を流す。
彼は何人かの女性とか恋仲になりながらも
結婚には至らず、生涯独身を貫く。
ゲルダを忘れられなかったーと誰しもが思うだろうし
自分自身、そうだったと信じていた。

信じていたと過去形で書くのは、
キャパにまつわる色々な伝聞にふれるうちに
彼の人となりが自分が思うよりも
強かであったであろうことに思い至ったからだ。
彼は、いろいろな噂や風評について、
肯定も否定もせずに流れに任せて
噂自体を面白がっていたような節があり
もしそうならば、ゲルダという存在に
彼が終生とらわれるのは不自然と感じるようになってきた。

もちろんゲルダとの恋愛は真実であり
彼女の死に際し、彼が悲嘆にくれたのは事実だろう。
その後の多くの恋を咲かせながらも
結婚という果実を実らせなかったのは
ゲルダへの思慕ゆえだといのうは、
三者による過剰なロマンチシズムだと思う。


とはいえ、魅惑的な笑顔で、
手練れの詐欺師のように不思議と話しをまとめてしまう
怪しげな側面を併せ持つキャパには
やはり、真贋不明の伝説の衣をまとっていた方が
個人的にはしっくりくる。



キャパの十字架 (文春文庫)

キャパの十字架 (文春文庫)

「キャパの十字架」


ルポライター沢木耕太郎
キャパを戦争写真家として押し上げた「崩れ落ちる兵士」の謎に
挑み、その経緯と結果を記した作品。
2013年ごろ、NHKがドキュメンタリーとして
テレビ放映された内容と、同一であった(ような気がする)
報道された写真の縦横比や
ゲルダとキャパが使用していたカメラの特徴から
崩れ落ちる兵士が「本物」ではなく、
ゲルダが撮影した可能性が高いとの結論だった。

タイトルの含意は
キャパは「フェイク」によって生涯にわたり
十字架を背負ったとする沢木の見解なのだろう。
やや大上段に構えすぎているようなタイトルだと感じる。

個人的な見解を述べれば
沢木の結論が事実にせよ、
キャパがその事実をキリスト教徒の原罪のように
感じていたとは思わない。
真実と虚構の間を歩き
自分の感情にすらときおりフェィクをいれる
人生を楽しむ達人であったー、そう思えてならない。