きみの空



今から二年前、今の部署に異動して間もない頃、
会社のとある筋からビデオ編集の依頼を承けた。
内容は十数年前に不慮の事故で
亡くなった方の知られざる功績を題材として
心ある人に知らしめようとする目的のものだった。


自分の本業とは掛け離れて、
しかも記録や資料が不足して、専門の器材もない
編集よりその周辺の作業に多大な労力を
必要とすることは容易に予想がついたが、
一も二もなく、話を受けた。


実はその年の前年の暮れに友人と会った際、
その事故について、一般社会と自分の認識が
あまりにも掛け離れていることを知り愕然とした。
悔しさにも似たその思いを何らかの形で
作り上げようと日々うつうつとしていた時に
飛び込んできた依頼だったからだ。


作成中、幾つかの困難に遭遇しつても、
数奇な出来事に導かれるようにして、
十数分間の映像として形にすることができたのは、
人知の及ばない何らかの力に
扶けられたのだと今更ながら思う。


編集の際、挿入するために集めた楽曲の一つが
奥華子の「きみの空」だった。
サビの詞が探していた言葉そのものであって、
映像のテーマに最も相応しいと思った。
オクターブの高い女性ボーカルは
メロディーがしっかりさえしていれば
映像の重厚さを損なうことなく
作り手の心象的世界を可聴化ならしめ、
作品のテーマに受け手の共感を呼びやすくなることを
経験的に理解していたので
この曲をメインにしようと考えていた。
しかし、残念なことに編集の都合や著作権
何よりナレーターとの声質との兼ね合いで
使用するのを見送ることなった。


だが未だに思い入れのある曲である。






やさしい花の咲く場所

やさしい花の咲く場所