非属の才能


非属の才能 (光文社新書)


中国で反日運動華やかなりし頃、日本にも反省すべき点があると
自サイトで発言し、瞬く間に炎上したうすらヒダリっぽい漫画家山田玲治が
「非属」という自己の考え方について語ったもので
平均的な行動を取らないー同調圧力に屈しないで生きろという類のことが
延々と述べてあった。


この本はそれなりに売れているらしいが、全く理解できない。
ときおり太字で自己の主張を述べているのが読みづらいし
書いてある内容もどこかで聞いたりした人の受け売りが多く
新書とはいえかなり空疎な印象が残った。


"平均的"に生きているすべての人間が没個性的という訳でもなく
体制からドロップアウトした人間がすべて正しい訳でもない。
勿論、成功する人間には人間なりの哲学ありセオリーがあり
作者の云わんとするところもある程度理解できるし
異端で生きることの正当性を否定するわけではないのだが
情報のダイエットをしろとか
成功するためには人と違うことをやれとか、
人と違うから成功するだとか
体制に属している人間は何も考えない人間だとか
声高らかに主張する作者の考え方は何かが違う。


異端であることの才能と異端の才能は、必ずしもイコールではないし
そして、成功するのには必ずしも異端の才能を必要としないと個人的には思う。
体制に対して、確かに年金とか政治とか腹の立つことが多く
日本の社会はベストとは云えない。
しかし、ワーストでもない。
社会変革ないしは改革の手段はあるし、
不満があったら、それを改革するのが大人というものだろう。
世の中を動かしているのは、作者が体制側と認識している人間であり
そうした人間の努力があってこそ、
平和や秩序という恩恵が受けられるという基本的な事実に
作者は何も示さず、ただ体制が悪いと云う彼の思考は観念的であり、
その考え方をすべて受け入れることは残念ながらできない。



昔、この人がモーニングの増刊に描いた「17番街の情景」とか「RAIN」は
今でもtacaQの中でベストな漫画なのだが
いっちゃったまま帰ってこないのが残念である。


17番街の情景 (宝島comic)

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