沈黙のファイル?「瀬島 龍三」とは何だったのか


沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫

沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫

共同通信社の記者が
大東亜戦争中、大本営陸軍参謀部作戦課で
服部卓四郎の懐刀として働き
戦後、伊藤忠商事で内外のビジネスに動き回った
瀬島龍三の軌跡を追ったルポ。


時の首相中曽根康弘の依頼を受けて韓国を訪問したとき
「僕は中曽根ごときの参謀ではない、日本国家の参謀だ」と怒ったことや
東京裁判で証言した*1理由として荒廃した祖国の惨状に絶望などが拾ってあり
それなりに興味を惹く部分はあったが
全体的に期待はずれと云わざるを得ない。



終戦後の伊藤忠商事時代、
インドネシアや韓国の賠償ビジネスに絡んだ彼の仕事ぶりを追い
"戦争後の貧困にあえぐ民衆を無視して、権力者を太らせた"
"日本が支払った賠償金で興した海外の事業を受注したのは日本の企業が"
と彼の手がけたビジネスに批判めいた文章がちらばっているが
その指摘は、的はずれで無意味である。


為政者の裏金作りに協力したからといって
瀬島が私腹を肥やしたわけでもなく
会社として手数料をとるのは正当な商行為である。
仮に賠償金を国民に均等にばらまいたとしても
国全体が豊かになるわけでもなし
少なくともそのビジネスで各国のインフラは最低限整備され、
後日発展の土台が築かれたのは紛れもない事実だ。
日本の企業も仕事を受注することにより潤い
それが国の隆盛に繋がり、ひいては国民は豊かになった。
その事実を無視して、瀬島と伊藤忠のビジネスを批判するのは
ナンセンス以外の何物でもない。


また、
彼の作戦指導と因果関係が明確にしないまま石井731部隊の挿話を
引用するなど、題名とかけ離れた無関係な記述が多く
全体として水増しした感が否めず
この本のタイトルで日本推理協会受賞作品というのは
ジョークだと思う。


瀬島龍三の周辺の人物を追って、
彼の人物像を浮き彫りにしようとしたそのアイディアは悪くないが
肝心の瀬島の人物像に殆ど踏み込めず
このルポから瀬島の人物像を導き出すのは不可能だ。
アマゾンからプレミア+送料を払ってまで購入する価値はなかった。

*1:もっとも彼の証言はソビエトの期待したほどでなく心証を損ない極寒のソ連で懲役25年の刑を言い渡さている。