自壊する帝国

自壊する帝国


外務省休職中の佐藤優氏が
外交官として活躍した時の体験を綴ったもの
"どんな国際スパイ小説よりスリリング。
 今、日本に求められるのはこの男の「情報力」だ”
と、オビに打ってあったが、
なるほど重厚な内容と緊迫した展開に富んだ本書は
オビに違わなかった。


佐藤氏はチェコの神学を学ぶため、外務省の門を叩いたが
意に反してロシアスクールに配属され、モスクワに赴任させられてしまう。
しかしそこで本人も気がつかなかった外交官としての資質と素養があり
モスクワ大の哲学科を足かがりとして交友関係を広げて
ソビエト解体を目指すバルト三国の人民戦線のみならず
体制派のソビエト共産党リトアニア共産党にも広げ、貴重な情報を収集する。
彼が入手したとされる情報をつなぎ合わせれば
"ソビエト連邦"という帝国が何故崩壊したか、
その理由から経緯までのすべて俯瞰することができる。


本書から読み取った内容をtacaQなりにまとめて解釈すると以下のようになる。
ソビエト連邦共産主義という嘘で人民を支配した。
ソビエト人民はその嘘を知っていたが、知らないふりをしていた。
だが、ゴルバチョフグラスノスチ(情報公開)を
きっかけにその嘘の大きさを知り
それに耐えられなくなって共産主義解体を目指す動きが公然化した。
ソビエトを維持しようとしたゴルバチョフ共産主義者ではなく
生粋の共産主義者から反発を受けた。
共産主義者共産主義を信じていたというより
国土が切りとられ、西欧とアメリカの半植民地になることを恐れていた。
ロシア共産党ソビエト連邦の維持を目指していたが、
連邦政府の方針と対立したために
結果的にソビエト解体を促進させてしまった。


ソビエト崩壊については、様々な学者が多くの理由を述べているが
tacaQ的にはソビエト崩壊の現場を立ち会った佐藤氏の著述が一番しっくりくる。


インテリジェンス・ノンフィクションということだが
いまだ現場で動いている人間もいるので、本人の復帰の意志の有無にかかわらず
全てがノンフィクションであり得ないだろう。
しかし、それでもこの手の本にありがちな、
優秀さをアピールするの部分が少ないので
安心して読むことができるし、内容をそのまま信じても問題ないと思われる。


それにしても何故佐藤氏が多くのロシア人に愛されたのだろうか。
それはウオッカが大量に飲んでも醜態をさらすことはなかったこともあるが
キリスト教の素養があったからだと私は思う。
佐藤氏自身も認めているが、キリスト教は中途半端であり
その中途半端さが本人の性にあっているとのことだが
そうした知識があった上に拘泥されない精神の自由さが彼にはあった。
そして何より窮地においても友人を裏切らない姿勢が
彼の信仰を通じて理解されたのではないだろうか。
控えめな彼が例外的に自分をアピールしているのが人を裏切らないという点である。
それを誇張や他のものを隠す嘘と見なすこともできるかも知れないが
鈴木宗男氏に連座して逮捕された経緯からも、
本音はともかく筋として人を裏切らないのは事実だ。




以上、インテリジェンスがたりない男の読書感想文である。