年末に文庫を購入して通読
西欧から見た日本というのは大別して二つの見方に分けることができる。
西洋的思想から日本を分析して無理矢理に西洋の型に嵌めてみようとするものと
日本文化が異質であることを受け入れ、日本にとけ込もうとするものである。
前者は日本が諸外国からどうみられているかを確認する目安にはなるが
それ以上のものになり得ず、また的はずれな文化比較論に終始したものが多い。
一方後者は、圧倒的な知識で日本文化に対する深い造詣を示し、
日本人である自分も舌を巻いてしまうことがたびたびある。
ドナルド・キーン氏、C.W.ニコル氏の著作などは、その代表的な例であり
アーサー・ゴールデンが著した「さゆり」は紛れもなく後者にあたる。
「さゆり」は大正から昭和の日本を背景に、貧困の中から、一つの希望を胸に秘め、
つらい修行や仕打ちに耐え舞妓から芸者となり想い人と巡り会い、
葛藤に苦しみながらも一途に生きようとする女性の物語である。
貧しい漁村から祇園に売られ、時代という大波に流され
見えない鎖に縛られる人生だったとしても
愛することが幸せなかの、愛されることが幸せなのかという究極の選択を
読む者に突きつけずにいられない。
また翻訳者が操るしなやかな京言葉が、物語に陰影を与えるともに深い彩りを添え
作者が描こうとした世界を遺憾なく、そして鮮やかに引き出している
それにしても日本についてよくぞここまで、と賞賛したくなる小説である。
- 作者: C.W.ニコル,C.W. Nicol,村上博基
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1992/12
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