燃える男

かつて読んだ本が、リニューアルされ書店で並んだのを見つけた時
何やら懐かしい旧友にひさびさに会ったような気分になる。
それが自分の好きな作家の好きな作品ともなれば、
そうした感慨もひとしおである。
A.J.クィネルの「燃える男」は、
自分の知る限り二度ほど出版社を替えて出版されており
昨年末のリニューアルで、二度目の再会となったのだが
今回、書店で平積みされていた時はちょっと事情が違っていた。
この物語を原作とした映画が公開されているというのだ、
ひさびさに会った"旧友"は、えらく"出世"していた。



子供のボディガードを依頼され
それを完遂できなかった元傭兵のクリーシーが
誘拐に携わった組織全体相手にたった一人で戦争するという
イタリアでの復讐譚を骨子としたこの物語は
映画では、舞台をメキシコ・シティに移し
物語の主要なあらすじのいくつかも大胆に変更して映像化されていたが
原作の持ち味を十二分生かした作品となっていた。


誘拐された子供のピタ役のダコタ・ファニングの演技も素晴らしかったが
何と言ってもデンゼル・ワシントンがハマリ役だった。
人生に疲れたアル中の中年元兵士が、少女の無垢な魂によって
人生に再び光を見いだし、それを奪い去った者へ
冷徹に逆襲するという役処を完璧に演じきり
観客に背筋の凍るような緊張感とともに復讐という甘美な感情を与えていた。


暴力シーンが多くR-15 指定となっているので
女子供には薦められないが、いい作品に仕上がっていると思う。
邦題がケビンコスナーのヒットした映画にあやかって
「マイボディガード」となってるのはイモだが、
それは映画の出来映えについて免じて許してもいいような気がする。


それにしても、かつての書評に
「人生に疲れた中年お父さんにおすすめ」とあったと記憶するが
自分がそうした立場に近くなるころに映画化されるとは思わなかった。
心なしか、疲れた心が軽くなったよう気がする。(笑)





映画「マイボディガード公式サイト

燃える男 (集英社文庫)

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