天切り松


天切り松 闇がたり 1 闇の花道

浅田次郎曰く、嘘はでかい嘘ほどバレにくい。
これは浅田が若かりし頃、昔話をでっち上げて、
生臭坊主から金を騙しとった時に学んだ人生訓だそうだ。


そんな嘘つき作家浅田次郎の文章を信じるならば
ヤクザの企業舎弟をしていた若い時分には、ブタ箱の厄介に何度かなるほど
すさんだ生き方をしていた。
天切り松闇語り」は、そうした荒れた生活をしていた時
留置所で、昔なからの泥棒の技を持つ爺さんと意気投合したのが
そもそもの始まりだそうだ。


天切りというのは、屋根の瓦を一枚外して、その瓦一枚分のスペースから
屋内に入る泥棒の技とのことだが
ついぞ最近まで、こういう技があるのだと本気で信じていた。
しかし、この技も、浅田のフカシであるらしい。
よく考え見れば自明のことで、
瓦を一枚外しても通常の作りの家では板が貼ってあるので
それだけで家に入るというのは、絶対にできないのだ


だが、そうした嘘を差し引いても、
この作品はある種のリアリティーに満ちていて、そうした気分に浸ってしまい
他の浅田作品同様、気が付いたら泣いてしまう。


浅田次郎というのは、本当に不思議な力をもった作家である。