2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ソウちゃんとタケちゃんの夢7

レースの後、夕闇がアデレードを包むころ、市内の日本料理店で、会社スタッフによる宴が開かれた。創業者のオヤジを迎えて、四輪世界最高峰のレースでチャンピオンとなったことを祝うことを前提として事前に予約がされていたものだった。 レース序盤でネルソ…

ソウちゃんとタケちゃんの夢6

「ナイジェルの燃料は大丈夫か?」ヨシはピットクルーに尋ねた。 「はい、このペースであれば5リッター以上残ります」 昭和61年11月オーストラリア、アデレード。この年は、最高峰レースのチャンピオンシップは混戦となり、ドライバーズ部門は最終戦まで決定…

ソウちゃんとタケちゃんの夢5

「ヨシさん、どうします?」会議に陪席していた後輩のスタッフが尋ねた。 「アニキの気の変わるのを待っていたら、シーズンが終わる。とりあえず設計を進めて試作品を作っておこう。テストや実車への搭載は作りながら考えよう」 「そんなことしていいんです…

ソウちゃんとタケちゃんの夢4

「ヨシ、もう一遍いってみろ」 「ノブのアニキの作ったエンジンは古いといったんです」 アニキの目が大きく見開いていた。ヨシはノブが本気で怒っていることが分かった。 昭和60年2月、世界一を目指して四輪のフォミュラーレース最高峰に挑んでいた会社は壁…

ソウちゃんとタケちゃんの夢3

「ソウちゃん、世界を目指そうよ」オジキの言葉を続けた。 「……」オヤジは目を瞑った。 「会社にはでっかい夢が必要なんだよ。うちの会社には技術もある、日本に貢献するというソウちゃんが掲げたぶっとい芯もある。あとは大きな目標があれば、会社はまだま…

ソウちゃんとタケちゃんの夢2

会社のただならぬ様子にオヤジも気づいていたが、経営に関して何もオジキに注文を付けなかった。「任せるといった以上、潰れようと無一文になろうとその結果を受け入れるのが筋だ。」といって、エンジン・トラブルの原因追及や商品の改良だけにかかりっきり…

ソウちゃんとタケちゃんの夢1

「ソウちゃん、マン島に行って来いよ」 「タケちゃん、何言ってるんだ、こんな時に」 ソウちゃんと呼ばれた社長は、差し出された銚子を猪口で受けながら、ふられた話を軽く流そうとしたが専務のタケちゃんはもう一度、マン島を口にした。「こんな時だからい…