ソウちゃんとタケちゃんの夢7

 レースの後、夕闇がアデレードを包むころ、市内の日本料理店で、会社スタッフによる宴が開かれた。創業者のオヤジを迎えて、四輪世界最高峰のレースでチャンピオンとなったことを祝うことを前提として事前に予約がされていたものだった。
 
 レース序盤でネルソンはスピンしていたが、その後はミスを補ってあまりあるパフォーマンスだった。ネルソンは、最後までチャンピンにふさわしい走りをみせた。ネルソンはファステスト・ラップを重ねてアランに迫ったが、アランは動じることなく勝負に徹して82周を走りきった。アランもまたチャンピオンにふさわしかった。アランはネルソンよりわずか先にゴールに達した。ネルソンがゴールに到達したのはアランの4秒後だった。なぜ勝てなかったのか? エンジンの出力も燃費もポルシェよりも会社のエンジンの方が上だった。チャンピオンとなるために何が足りなかったのか―?、油断があったのか、ヨシは自問を続けながら席に着いた。

 宴会の会場は、畳が敷き詰められた日本風の部屋だった。異国での生活が続き、やっと帰国できるー畳の匂いに押さえ込んでいた故国への慕情があふれだしそうになった。ヨシの心を祖国へのなつかしさがしめた。だが、それはわずかな時間だけで、再び勝負に勝てなかった口惜しさが首をもたげた。

 ヨシがやるせなさと格闘しているうちに、オヤジが娘夫婦ともに会場にやってきた。全員が盛大な拍手で迎えた。現場から引退していたオヤジとともに勝利の美酒を味わうことをヨシは望み、それを叶えることができなかった無念がヨシの心を重くした。「せっかく、日本から来ていたオヤジさんに申し訳ないことをした」ヨシはオヤジに土下座してあやまりたかった。最終戦で勝利を逃がした会社のスタッフも、似たような気持ちだった。レースの結果にがっかりしながらも、ヨシを励まそうとしたアニキの言葉がよぎった。来年こそは―、ヨシは固く心に誓った。

 乾杯の音頭をとってもらうために若いスタッフがやや緊張しながらオヤジに申し出た。宴会に参加していたのは若いスタッフばかりで、オヤジと一緒に仕事をした人間はほとんどいなかった。最年長のヨシですらオヤジから怒声を浴びせられたのは1、2年に過ぎなかった。それでもスタッフ全員がオヤジの激しさを伴った情熱を知っていて、直接の薫陶はなくてもそれを受け注いでいる自負があった。

 オヤジは機嫌よさそうに頷いて、ビールが注がれたコップをもって畳より一段ばかり高くなっていたステージの上に進みでた。そこでヨシたちは信じがたい光景に遭遇した。オヤジはステージの赤いカーペットの上に正座して、コップを脇において手を床につけて深々と頭を下げた。宴会場にどよめきが起きた。満面の笑みを浮かべながら矍鑠としたオヤジの言葉が胸に響いた。ヨシは思わず嗚咽を漏らした。まわりのスタッフも衝撃を受けて、目に涙を浮かべた。

「世界一になるという私達の夢をかなえてくれてありがとう」