歴史群像に連載されていた吉原昌宏氏の
「翼をもつ魔女」が完結を迎えた。
といっても最終回が掲載されたのは
昨年の12月号の話なので、
かなり出遅れた話である。
航空行進曲の邦訳を記しつつ
主人公のリドバクが来世に
仲間との再会を希望し
戦闘機に搭乗するラストシーンは
戦争に翻弄されながらも
精一杯駆け抜けたであろう彼女の生きざまが
否が応でも想起させられ、
その酷薄ともいえる生涯に
感情が激しく揺さぶられた。
メンフィスベルを始め
多くの映画やドキュメンタリーが
作成された西部戦線とは違い
ドイツとソビエトが対峙した東部戦線は
個人的にスターリングラードくらいしか
なじみがなく
ましてや航空戦に女性パイロットが
投入されていたことなど
まったく知らなかった。
不明を恥じるばかりである。
現実の話として
物語の主人公となったリディア・リトバクは
東部戦線で行方不明となったのち
捕虜になった疑いが生起し
その功績は長い間、
称えられることはなかった。
ウクライナの地で
彼女のものと思われる遺骨が見つかり
英雄として認められたのは
彼女が守った祖国が
崩壊する前年の91年5月であったことが
伝えられている。
彼女の人生の終となった地では、
かつて同じ国民であった者たちが対峙し
再び大地を朱にそめている。
泉下の彼女は繰り返される惨劇に何を思うか。
曲調と歌詞が勇ましさでみちているこの曲を
滑稽と笑い飛ばすことは容易だが
空で命を落としたものたちの悲哀を
感じずにはいられない。