マグマ


マグマ (朝日文庫)


「ハゲタカ」でブレイクした真山仁のエンターティメントノベル。


贖罪のため地熱発電に残り少ない命を賭けた御室
苦労知らずのお坊ちゃま経営で会社を左前にした安藤
その会社にターンアランドマネージャーとして乗り込む野上妙子
本社の覚えめでたくするためには手段を選ばない非情の男・持田
原発、電力、国際政治、金融という要素を複雑に絡め
それぞれの生死が交差して織りなすドラマは
読む者を熱いマグマが蠢く灼熱の奈落へと導かずにはいられない。



外資系ファンド会社ゴールドバーグキャピタルの野上妙子は
海外でバカンスを楽しんだ帰国後、
自分の所属する部署がまるまる消失するという
彼女にとって信じがたい光景を目の当たりにする。
妙子の上司が、支店長に反乱を企てたというのが消失の理由だが
その説明に腑に落ちないものを感じた彼女は、
元同僚と接触を試みるも、真相に迫ることはできなかった。


状況が全くみえないまま
妙子は、自らが買収した会社の再生のため
九州大分、日本地熱開発社に乗り込む。
経営を立て直すため、社員を全員解雇の上、再雇用し
研究開発費を削減するセオリー通りの再生計画を彼女は示すのだが
支店長の持田は、理由を明らかにしないままそのプランを認めない。


当初は、不透明な支店長の言動に悩まされ
地熱発電に全く理解を示さなかった妙子だが
九州で、経営を破綻させた元の社長の安藤と
日本地熱発電の第一人者御室らの執念ともいえる熱意に当てられ
"地熱"の持つ魅力に取り憑かれ、
自らの意志で地熱による電力販売のため奔走を開始するのだが
かつての上司大北が忽然と現れ、
支店長持田に対する復讐を予告し、事態が風雲急を告げる。
多くの波乱を含みつつも地熱発電の未来を賭けて
それぞの意地と野望が激突する。





アジアやアフリカの成長を阻害することが目的の一つである京都議定書
安全でクリーンかつ安価と云われる原子力発電のからくりなど
この書は、日本に流通する多くの政治的欺瞞と対峙している。
そのため、非常にスリリングでありかつ読み応えのある物語となっているが
この小説の魅力はそれだけではない。
前作「ハゲタカ」にも見られたように
登場人物の造型の巧みさに、この物語の面白さがある。
それゆえにストーリーが進むにつれて、
何度も魂が激しく揺さぶられる。
まさに一級のエンターテイメントにして最高の経済小説と云えよう。