麦の穂を揺らす風

有楽町シネカノンで鑑賞。


1920年代、舞台はイギリスの支配下アイルランド
英語で名前を言わなかったために友人が殺されるなど
ブラック&タンズに象徴されるイギリス暴虐な支配の数々に
耐えきれず立ち上がるアイルランドの青年デミアン
それは独立というより人間らしく笑って泣いて生きて死ぬー
人間として当たり前の権利を取り戻すための戦いだった。
結果的に闘争の末、敵味方双方に多くの屍を築き
アイルランドは限定的とはいえ自治権を獲得するのだが
それは自由を700年間待ち望んだアイルランド人とって
満足できる内容ではなかった。


分割して統治ーイギリスの狡猾な統治手段によって
自由と独立を求めた義勇軍は2つに割れてしまう。
平和条約の批准をめぐってアイルランド人同志が
殺し合う内戦が勃発して新たなる哀しい悲劇の幕が開ける。


当時のIRAの運動が何故あれほどまでに広範な支持を民衆から集めたのか。
それは主義や主張、宗教や思想ではなく、イギリスの支配に
心の底から燃え立つような憤りを皆が抱いた結果ではないだろうか。
そうした背景が理解できるように映画の前半はイギリスの横暴さと
虐げられてきたアイルランド人達が如何に条約締結までを丁寧に描いていた。
この映画の観客はアイルランド人側の怒りと悲しみを容易に理解し、
大きな共感を感じることだろう。
だが、それは映画の後半で制作者の大いなる問いかけの導入に過ぎない。


物語後半では平和条約の批准をめぐって
アイルランド人同士が戦う場面が展開されるのだが
作品の前半で主人公に感情移入していた者としては、
時代の流れに飲み込まれたような性急な展開にとまどいを覚え
やり場のない結末には「何故?」と思わず叫びたくなってしまった。


何故人は人と争うのか、争わなければ生きて行けないのか。
幸せに生きていこうとするのに、何故殺し合わなければならないのか
無知と貧困、差別、因習、頑迷、執着
そうしたものが人を不幸にしていると分かっていても
当事者はそれを捨てられないし、捨てることができない。


「人間の性」と一言で片づけるには、あまりにも重い物語だった。