冒険者カストロ


冒険者カストロ (集英社文庫)

わたしを有罪にするがいい。どうということはない。歴史は私に無罪を宣告するだろう
フィデル・カストロ


昨年まで、キューバ共産党議長カストロについて
さほど興味を持ったことはなかった。
だが、チェ・ゲバラの伝記を読み、彼の盟友として
キューバ革命を成功させたこの人物に少なくない興味を覚えた。


冒頭の文は、1953年7月26日、バティスタ政権を覆すため軍を襲撃し
失敗して囚われの身となった時法廷で述べた言葉である。
当時、カストロは弁護士の資格をとっており、弁護人なしで裁判に臨むことを要望し
これを法廷に認めさせていた。
彼の演説とも云うべき弁護は、4時間に及んだという。
自分はこの言葉をきいたとき少なくない感動を覚えた。
己の行為が論理的に正しいとしても、非合法の行為にこれほど確信に満ちて
自分の正当性を訴える者を私は聞いたことがない。


また、彼は数年後、刑務所から釈放されてメキシコに亡命し、
再び革命のため帰国するが蜂起は失敗してしまう。
この時志を共にする同士が12人*1となってしまうのだが
これでバティスタの命運は決まったなどと嘯くなど、
どんな逆境でも彼は諦めず、希望を捨てることはしなかった。
そしてこの不屈の精神は、やがてキューバ全土に大きな波を呼び
2万人の正規軍を擁するバティスタ政権を倒すに至る。


彼が、キューバにおいて革命を志したのは、貧しい農民を哀れみ
人民を搾取する資本家やその甘い汁をする人間に憤りを感じたからである。
簡単といえば、これほど簡単な理由もないだろうが、それゆえに強い。
またその強さ故に、多くの暗殺の危機を乗り切り、
革命を成功に導くことができたのかも知れない。


運命を切り開くのは意志の力である。



(過去関連記事)チェ・ゲバラの遙かなる旅

チェ・ゲバラの遥かな旅 (集英社文庫)

チェ・ゲバラの遥かな旅 (集英社文庫)

*1:16人、17人の説あり