- 作者: 浅田次郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/06/17
- メディア: 文庫
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いい話じゃねえかい。伊藤博文のかけた魔法を幼なじみのおめえが解いてやるてぇ、 そのばかばかしさ加減が粋ってもんだ。 御一新からかれこれ六十年近くたとうてえのに、 どっこい江戸っ子の心意気は生きていたってわけさ。 いいか、若ェ衆。宵越しの銭をもたねえってのは、ただ金遣いが荒いってことじゃねえ。 俺っちァ銭金じゃ買えねえ心意気を、この懐にたんと抱えているってこった。 こればかりァ、薩長の田舎侍どもに真似はできめえ。
日本中の目利きみごと欺くらかしたって、小龍てえその芸者だけは欺しちゃならねえ。 やい黄不動。てめえも天下の職人なら、横着な仕事はするな。 男だったら筋の通らん嘘はつくんじゃねえ。 たとえ空っ穴だろうが酔いどれのろくでなしだろうが、 通さずはならねえ筋さえ通して生きれァ、 男は男なんだぜ
浅田次郎「天切り松闇がたり」シリーズ三冊目となる初湯千両は
前二作にも勝るとも劣らぬ出来で、
困窮の戦争遺族をたすけるため陸軍大臣の家に押し込む「初湯千両」
胸を煩った幼なじみのため皇室の御宝物をすりかえる「大楠公の太刀」
サーカスの花形道化の父親と息子の悲哀を描いた「道化の恋文」
など珠玉の物語があつらえられていた。
筋を通すべき相手はおらず、粋というほど垢抜けてはいないが、
銭金で買えない心意気くらいは持ち合わせてみてぇな、と今宵の月にそっと呟く。