五郎治殿御始末

五郎治殿御始末 (中公文庫)


五郎治は始末屋であった。藩の始末をし、家の始末をし、最も苦慮したわしの始末もどうにか果たし、ついにはこのえ望むべくない形で、おのれの身の始末をした。
男の始末とは、そういうものではならぬ。決して逃げず、後戻りせず、能う限り最善の方法で、全ての始末をつけねばならぬ。
「五郎治殿御始末」浅田次郎


家族、国家、天皇制...etc
絶対と信じているものが仮にフィクションだったとしても
信じる者がある人間は、それをもたない者より
不幸だと誰がいえようか。





江戸から東京へと首都の名称が変わった明治維新直後
人々は沈没船から逃れるように先を争い
古いモノを否定し、新しいモノに乗り換え
流れに乗り遅れた人々が旧弊と侮蔑される時代
そんな軽佻な世相の中を不器用にそしてまっすぐに生きた男たちを
描いた浅田次郎の短編小説集



住んでいた街並みが大きな変貌を遂げ、
太陰暦や一日二十四時間の時刻などそれまでの習慣や基準が変わり
価値観も大きな相違した時代の変動に突然投げ込まれも
そして人から言われなき誤解や中傷を浴びせられようとも
通すべき筋を持つ人間というのは存外幸せなのかも知れない。


「世間虚仮唯仏是真」の言葉が正しいければ
壮大な嘘を信じて生きるのもまたよし、である。