プライド

プライド (新潮文庫)

プライド (新潮文庫)


「ハゲタカ」の真山仁の短篇集。
茫洋とした定年間近な男と若いキャリアウーマンの異色の農林官僚コンビ
屈折したエリート医学者と一匹狼の天才心臓外科医、
元学者の養蚕家と田舎役場の職員
、老舗菓子メーカーの役員と現場の菓子職人
舌禍の絶えない官僚あがりの大臣と私設秘書、
報道写真家から転身した養蜂家とジャーナリスト


現実に起きた或いは起こり得る出来事を題材にして
登場人物の対峙と協力を通じそれぞれが仕事に持つ、
信念、矜持、誇り、意地などが
悲喜こもごもの感情をもって綴られている。


仕分けや菓子メーカーの賞味期限偽装など
国民の大半が思い当たる大事件や出来事を
物語の入口としながら
都会の人間がほとんど触れることのない「農業」や「食品」の真実を語るなど
綿密な取材を重ねたであろうことが
伺われる力作が収められ、
読後にハゲタカやマグマの長編小説のようなカタルシスはないものの
様々なテーマで読者に問いかけが
投げかけられている。
いろいろな意味で考えさせられた。


特に、「食」「農」というテーマは、身近でありながら、
手の届かない遠い存在になっていることを描き
現在進行形で多くの危険な問題をはらんでいることを教示し、
多くの人間が現実と向き合うべきことを提示している。



この国の未来を託すために
「一俵の重み」に登場する老官僚米野のような
深い奥行きの人物の出現を願いたいものであるが
まず一人ひとりが仕事にプライドを持つことが大事と
不肖の身ながら思う。