イラク 戦争と占領

イラク 戦争と占領 (岩波新書)


アメリカがイラクフセインに対して戦争を仕掛けた理由が
大量破壊兵器でなかったことを驚く人間は今更いないだろう。
しかし、戦争後の占領によってアメリカ人を含めた多くの人間が
イラクの地でテロの犠牲となった今、
戦争の理由が合理性や国益が欠くどころか
全く無意味なものだったら、驚くに値するかも知れない。


イラクのテロが激化する兆しがみえた2004年の年末に出版された本書は
イラク戦争アメリカ政府が如何に無計画で突き進み
戦後の占領政策を無為に行ったかを詳細に語っており、
述べられているその無見識ぶり及び横暴さが事実だとすれば
アメリカ政府の政策に今更ながら絶望するより他はない。
内容が米国に対して辛辣ではあるが
イスラムイラクの事情についても明るく
反米で凝り固まった米国批判書とは明らかに格が違い
それなりに信がおける書籍だと思う。


大量破壊兵器があるとした根拠は、
亡命イラク人数人からもたらされた情報であり
それを"クロ"と思いこんだCIAの失態だったということは
あちこちで耳にしたことがあるが
戦争後のイラク政策がここまで無計画だったとは正直知らなかった。


10年前の第1次湾岸戦争で、イラク政権内部のクーデターを煽りつつ
結局は、反フセイン勢力を見殺したという経緯があるにもかかわらず
2003年の戦争においても、内部クーデターを期待して戦争を進めたり
戦後のイラク民主化を謳っていながら
イラク宗教界の指導者が民主的に支持されそうになれば民主化政策を凍結したり
亡命イラク人による委員会を設けて、いくつかの提言や意見を求めたものの
それらのほとんどを採用しないどころか、顧みることすらせず
米国流の政治手法を強引に押しつけたり
有能な官吏のほとんどがバース党員であったが、
政治的活動、見識の有無を言わず公職から追放し、行政を麻痺させ
公社を民営化するといっては、大量の失業者を街に増やし
戦争後のイラクの混乱を自らの招いたとしか思えない数々の政策が
行われたことを記している。


イラクでのテロがここまで横行したのは、
米軍が決して占領軍だからでなく
占領した米国とその同盟国らがあまりにも
イラクについて無知で無能だったからに他ならない。
武装勢力の巣窟と言われたファルージャですら
当初は米軍に対してそれほど悪意をもっていたわけではなかった。
ただ、米軍があまりもイスラムイラクに対して無見識で無礼であり
誤解が誤解を呼んで不幸な事件が重なり
相互に憎悪を深めた結果に他ならない。


イラク戦争が間違いだったと今更いっても仕方はない。
たが、イラク占領政策のいくつかは明らかに間違いであり
速やかに混乱を収拾するための措置を
執らなければならないのではないだろうか。