風の陣・天命編

風の陣 天命篇 (PHP文芸文庫)



時は奈良、
恵美押勝が討伐されて1年後
朝廷では上皇の覚えめでたい怪僧道鏡が権勢を恣にふるい
政敵やその可能性になる者を次から次へと排除し
その力を増大させていく。


宮廷内に蠢く陰謀を封じた牡鹿嶋足は、道嶋の姓を賜り
員外ながら近衛中将という蝦夷の出自としては異例の出世をとげる。
彼は苦々しく思いなからも
親友物部天鈴の絵図どおりに
殺意を押し隠し獅子身中の虫として懐に飛び込む。


上皇は重さして称徳天皇となり、道鏡太政大臣禅師となり
やがて天皇と並ぶ法王という位を授かる。
道鏡は、天皇と同程度の待遇で飽きたらず
天皇の地位そのものをねらいはじめ工作を開始する。
一方、蝦夷らの土地では嶋足の出世により
牡鹿一族と蝦夷らのあいだ微妙な風が吹き始めていた。



高橋克彦の歴史物語「風の陣」第三作
時代的には蝦夷の雄アテルイを描いた「火怨」の前時代にあたる。
宮廷内の政争が物語の主題であり
火怨のように血湧き肉躍る戦闘場面はなく派手さはない。
しかし、登場人物を性格や出自を際だたせ
「火怨」にも劣らぬ魅力溢れる人物を描き出し
物語に読者の注意を惹きつけることに成功していると思う。