市ヶ谷の名をもって語られる防衛庁情報局。
市ヶ谷に仕え諜報の世界に生きる男女の魂を震わせる6つの物語
「亡国のイージス」「Twelve Y.O.」に続く
福井晴敏ワールド炸裂の日本的軍事小説。
くすぶり続けた中年男女の、人生に躓いた少年少女の失敗や過誤は
消えない染みのように記憶に止まり
魂を苛み続ける。
それぞれはそれぞれが与えられた役割を必死に果たしながら
重荷からの解放を願い、その術を模索する6つの物語には
諜報モノとしてはそぐわないような暖かい結末が用意されている。
この短編集では幻のデビュー作「川の深さ」から続く
架空の設定を少し進めているが、
馴染みのDICEは登場せずに、AP(警官補)や
SOF(特殊邀撃部隊)という役職の人間が登場し、物語の根幹を成している。
設定や物語の構図に多少煮詰まった感がないでもないが、相変わらず読ませてくれる。
それは、この作家がスパイ、軍(自衛隊)という現代日本に
馴染みにくい題材をとりあげつつも、魂の邂逅と再生をテーマにしているからである。
多数の北朝鮮工作員を向こうにはり
一人の少女が大立ち回りを演じる「サクラ」は、
個人的な嗜好でとても気に入ったが
老スリ師が登場する「断ち切る」のオチは、
ルパン三世カリオストロの城のパロディか、とツッコミをいれたい。
- 作者: 福井晴敏
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