夜のピクニック

夜のピクニック (新潮文庫)


作者の恩田陸は茨城の名門水戸一高の出身で、
母校の行事を題材にしたのだが
茨城の古い学校は結構、バンカラな行事や気風が残っていたりする。
ちなみにtacaQは、水戸一高(旧制茨城中)の分校として
発足した下妻南星高なのだが似たようなイベントがいくつかあった。


北高の全生徒が80キロを歩く歩行祭という毎年好例の行事を舞台に
甲田貴子と西脇融の二人の異母兄妹の心の交差を描いた青春小説。
二人はそれぞれ善意の友人に恵まれ、80キロを一緒に歩くのだが
仲のいい友人にも秘密していることがある。
それは血を分けた異母兄妹が同じクラスに居るということー。
二人はお互いの血を意識するゆえに互いに複雑な感情を持ち合わせており
それゆえ二人は不自然な動きをしてしまい、周囲では好き合っていると思われる。
そんな二人の心が80キロをひたすら歩くという特異な環境で
徐々に自分という人間を理解し、自分の本当の心に気付く。
血の繋がらない兄妹と彼らをとりまく善意の友人達の若々しさが
目に浮かぶようなみずみずしさに満ちていた。


好きなのに好きだと言えなかったり、
何か高校時代の想い出が欲しくて何かをしでかしたりと
若い頃を想い出すとき、布団を頭から被って隠れたくなるような
顔から火がでるほど恥ずかしい記憶の一つや二つはあるだろう。
そんな甘酸っぱい青春の想い出を清々しく想い出させ
心地よい読後感で満たしてくれる恩田陸節全開のファンタジー的小説である。