日本海軍に捧ぐ


日本海軍に捧ぐ (PHP文庫)


海軍に従軍した経験をもつ作家の阿川弘之氏が
ナチスドイツと結んで自ら滅亡への道を進んでいった帝国海軍」と
辛辣な言葉で海軍を評しているところをみると
「ネイビーはスマートネスを以てモットー」とした帝国海軍も
大東亜戦争末期にはそのスマートさを殆ど失っていたようだ。
だが、阿川氏の言葉をもって海軍の全てがしゃかりきに
戦争にのめり込んでいたと云うのは早計だろう。



日本海軍に捧ぐ」に記されているキツカ島撤退作戦や
広瀬武夫滝廉太郎の交流など秘話は海軍全体からみれば
ごく小さい端切れのような存在でしかないが、その端切れを集めた長短の物語集は
帝国海軍がかつてスマートであったであろうことを容易に想像させ
戦争の末期においても、その愛すべき伝統を受け継いだ人間がいたことを証している。



故に、ナチ云々と海軍を批評した阿川氏の言葉は、
愛する海軍が凋落の一途を辿った悔しさから出た愛惜の文句と解釈するのが妥当だろう
何故なら
「帝国海軍に 今更オマージュを捧げる意思はない捧げる意思はない」と述べていながらも
時代の中で精一杯生きたスマートな海軍軍人らを愛さずにはいられなかった作者から
帝国海軍への郷愁にも似た感情を感じるからだ。



売国奴が跋扈し、御霊の安らかなるにはかまびすしい昨今だが
北で、南で、海で、空で国のために散華した英霊の魂健やかなることを