岩手の空気はちょっと濃い、岩手の空はちょっと濃い

 
 

南部盛岡は日本一の美しい国でござんす。
西に岩手山がそびえ、南には早池峰。北には姫神山。
城下を流れる中津川は北上川に合わさって豊かな流れになり申す。
春には花が咲き乱れ、夏は緑、秋には紅葉。冬ともなりぁ、
真綿のごとき雪こに、すっぽりくるまれるのでござんす


壬生義士伝浅田次郎


行動予定などあってないに等しい行脚だったが
最終日、小岩井農場の一本桜を見にいくか、否かで悩んでいた。
しかし、盛岡在住の岩手純情米っ子の某女史より「盛岡快晴、一本桜満開」の
メールが届いたので、盛岡経由で帰ることに決めた。


1時間半オンリーの睡眠でぼやけた頭を引きずりつつ、盛岡駅ではやてを降り
岩手交通のバスに40分ほど揺られて小岩井農場へ。
到着するとそこは、桜がちょうど満開であっただけでなく
またそこかしこに原色の花が咲き乱れ牧場の緑と見事なコントラストを成していた
それに合わせて、高原のさわやか空気に触れていると、気分も心なしか晴れた。


牧場内を20分ほど歩くと、人だかりの群れにぶつかった。
一本桜は保護のため牧場関係者以外接近できないようになっており
100メートル以上離れた場所からの観桜となったが
山の雪、桜の花、牧場の緑、空の青で調和のとれた光景を前にしては
文句のつけようがなく、ただ畏まるより他はなかった。
桜を含めて小岩井の風景は、
自然というより人の手による人為的なものの色合いを強く感じる。
自然が素晴らしい、空気が澄んで美しいという都会人的な感傷よりも
生きるために自然との戦わねばならなかった先人達の汗の匂いが先につく。
一本桜の経緯については、あまり詳しくないが、
この桜の荘厳さも、開拓者のたゆまぬ努力ゆえに生まれたものかも知れない。