鱗姫


鱗姫 (小学館文庫)

嶽本野ばらを読んだ理由というのは、
私の出身地*1である下妻に関係した物語を
書いたということだけである。
でなければこの耽美的な作家の本を
手にすることは生涯なかっただろう。
彼(彼女?)の文章は、独特の言いまわしが多く、
人によって好き嫌いがあるだろうが、
私は決して嫌いではない。



この小説は、少女楼子(たかこ)が奇病に冒され、
麗しい肌が成長とともに醜く変質するというホラー基調の物語である。
主人公の少女が一人称で語る場面が多く、
底抜けに明るい独り善がりの口調が
物語全般にコミカルな印象を与え
時として物語の展開にややそぐわないような気もするが
強烈な自己陶酔と自己肯定をもってエンディングを迎えるこの小説は
紛れもない耽美的な物語である。
もともと耽美というのは、はたからみれば奇異なものであり
作者はそうした前提を承知の上で執筆し、
さらにはそれらを挑発しているような意図を文章の上から感じる。
一つ道を踏み外せば、ただのお笑い小説でなりかねない危険をはらみながら
耽美的な小説として話を見事に昇華させるあたり、作者の力量を感じる。


以上、俺は薔薇より美しいと一人ごちる耽美的中年の感想である。

*1:筆者の出身地はツクバサンであるが、下妻市内の高校に通っていた