夜明けの山下公園、彼は夜霧に濡れてじっと海を見つめていた北原三枝を拾ってくる。 「君は誰なんだ。」 「歌を忘れたカナリアよ。」 濡れた服を乾かし、スープとコニャックをすすめた彼は ”僕はもう日本に用のない人間だ、もうすぐ兄の手紙を手にブラジルへ渡るんだ。 何の気兼ねもいらない。心配ごとがあるならいってごらん。”そう語りかける・・・ ・・・さらにある日2人はヨットハーバーの防波堤に立っている。 女は過去を語ろうとする。彼女は新進の歌い手だった。 師でありマネージャーであり、また恋人であるある男がいた。 彼女の声が出なくなり、歌を忘れたカナリアとなった時、その男は去っていった。 裕次郎は、「聞きたくない。」と海原の照り返しに目を細めていう。 「聞いたところで僕が君にしてやれることといったら、 濡れた服を乾かしコニャックを注いでやることくらいだ。」 「複雑な彼女と単純な場所」矢作俊彦
海原の照り返しがなくても目が細いtacaQの代名詞はハードボイルドである。
正統派レイモンド・チャンドラーよりは矢作俊彦の文章の影響を強く受けていたりしていて
フィリップ・マーロウほどジェントルではない。
松田優作のようにベスパにも乗れないが
この駄文を連ねたサイトがコニャック1杯分に値すればと思う。